第251話 ユグドラシル
私は 近くにいたカスティロスさんに声をかけた。
「あの、あそこの樽の剣って、おいくらなんです?」
「そちらは、ニコロ工房のお弟子さんたちの習作なので、5000Gになりますね」
「エ、コレデシュウサク!?」
「ニコロコウボウッテ、モシカシテ、アノドワーフノ?」
「ええ、そうです。ニコロ工房はお弟子さんたちもドワーフしか雇いません。そのせいもあってか、人族が作る物に比べても出来が違います」
「サスガダナ!」
この手の武器の値段は、さっぱりわからない。
とりあえず、ドワーフっていうワードは、聞こえたぞ。
「それ、他の商品とかとまとめ買いしたら、少しは安くなります?」
「エッ」
「サツキサマ、ダイジョウブデスッ」
ケニーたちが慌てだしたけれど、ここは無視。
「ええ。他にもお買い求めいただけるのでしたら……お祖父様、よろしいですよね?」
「構いませんよ。ここはユグドラシルが根を張る土地、その地を守る者たちですから、お安くさせていただきますよ」
目をキラキラさせながら、私を見て、ユグドラシルへと目を向けるレディウムスさん。
『鑑定』しなかったら、私には木の種類などわからなかったけれど、エルフは一目見ただけでわかるんだろうか。
「ユグドラシル?」
「ええ! ユグドラシルが、仰っているのです。サツキ様の仰る通りにしろと!」
まるでスポットライトを浴びている舞台俳優のように、ユグドラシルの方へと手を伸ばす姿に、ドン引きする。
「……え?」
青々としたユグドラシルの葉が風に揺られている。
――まさか?
私にはタダの木にしか見えないけど……アレも精霊みたいに会話するの!?
「レディウムスさんは、あの木と会話が?」
「ウフフ」
「それは、他の方も……?」
「まさか! 私たちのような若輩者には無理です。お祖父様は精霊たちとも交流ができますから、当然かもしれません」
それって、私もユグドラシルと交流できるってことなんじゃ?
期待してユグドラシルに目を向けるけど、まったく、感じない。うむ。そこは、やっぱり、種族特性みたいなものなんだろうか。
「北の地の、魔素の多い土地に育つと言われているユグドラシルが、こんな南の、人族の近くの地に根付いているとは思いもしませんでしたわ」
「私もお祖父様に言われて、幹に触れて初めて、これがユグドラシルだとわかりました。本当に、驚きです」
「え? カスティロスさんはわからなかったのですか?」
「残念ながら……この辺の木にしては、ずいぶんと大きいとは思いましたが。そもそも、この土地にユグドラシルが生えているなどと、想像もしておりませんでしたから」
そうなのか。
「エンシェントドラゴン殿が、お持ちになったのでしょうか?」
「そうだが」
ニヤリと笑うレディウムスさんに、ずっと無言で様子を見ていたエイデンがジト目で見返している。
「孫を渡すのを渋ったのでは、ございませんか」
「フンッ、喜んで旅に出してきたわ」
「ホッホッホ、さすが、サツキ様ですなぁ」
「え、私!?」
意味不明な彼らの会話に、ついていけない。
もしかして、エイデンもユグドラシルと会話できるの!?
「それよりも、さっさと買いたいものを選んだらどうだ」
「あ、そうだった」
もう少し色々聞きたいところではあったが、私は商品の山の方へと目を向けるのであった。
このお話で、カクヨム掲載に追いつきました。
次回以降、1話更新になります。
ご了承ください。





