第250話 グルターレ商会
いきなりエイデンが音もなく現れるから、こっちもびっくりだ。
レディウムスさんも、エイデンがすぐそばに来たものだから、ムンクの叫びみたいな顔になっている。
「さ・つ・き・に・ふ・れ・る・な」
「は、はひっ」
返事をしたかと思ったら、バビューンと飛ぶように東屋の方まで逃げていった。
「……エイデン」
「おはよう、五月!」
呆れたように声をかけると、レディウムスさんに向けていた顔とは真逆の、眩しい笑顔を向けられて、思わず、手をかざしてしまう。
いや、うん、まぁ、麗しい顔だとは思うけどさ……。
逃げていったと思ったレディウムスさんだったけれど、東屋の柱から覗いている。
「おい、エルフ」
再び不機嫌そうなエイデンの声に、ぴっ! と声をあげて、再び隠れるレディウムスさん。
全然隠れてないし、可愛くもないんですけど(げんなり)。
「おいっ」
「はひっ!」
あ、出てきた。
シュタッと東屋の脇に直立してる。
「さっさと仕事をしなくていいのか?」
今度はエイデンが悪そうな顔でニタリと笑う。
その言葉で、あっ! という顔をしたかと思ったら、馬車の方へと猛ダッシュしていった。
「……なんなの。あの人」
「エルフの行商人、だろ?」
「まぁ、そうなんだけど」
しばらくして、レディウムスさんとカスティロスさん、それに護衛の人達と一緒に馬車をひいてやってきた。
「すみません、すみません。お待たせしてしまいまして」
「どういった商品がご希望なのかわかりませんでしたので、色々、ご用意はしてきたのですが……」
そう言うと、色んな大きさの木箱がドンドンと下ろされていく。
この幌馬車の中に、どれだけ入っているの? と思うくらい次々と出されていく品物たち。護衛の皆さんもお手伝いしてる。その手際の良さに感心しているうちに、荷物は全て下ろされたようで。
「グルターレ商会イチオシ商品をご用意してきました! さぁ、いかがでしょうか?」
……どこのフリーマーケット?
そう思うくらい商品が並んでる。ちゃんと本当に商人だったんだなぁ、と、ちょっとだけ思ったのは内緒だ。
食料品や衣料品などの日用品、農機具から剣などの武器や防具、そして。
「もしかして、これ、魔道具!?」
街で見たランプの魔道具や、私の持ってるコンロ、それとあれはテントだろうか。
「そうですよ。こちらの杭のセットは野営の時に使える魔物除けです」
大きさは30cmくらいの木の棒の先端に、白っぽい石が埋め込まれてる。それが5本1セットで置かれている。こんなものもあるんだなぁ、と手に触れながら見ていると、いつのまにかガズゥたちも私の背後に集まってきていた。
ガズゥは私にへばりついてきた。
「……におい、大丈夫?」
「ダイジョブジャナイカラ、クチデイキシテル」
「そ、そうか」
ケニーとラルルは剣などの入った樽の前で何やら話し込んでいる。
樽の中の剣を手にしたケニーは、真剣な顔。私も一本、手に取ってみようとしたけど……重くて持ち上がらないっ!?
「なんで持てるのっ!?」
「コレクライ、ヨユウデス」
「マジか」
「ワタシモモテマスヨ?」
ラルルもケニーと同じくらいのサイズの剣を、振り回してる。さすが、獣人、ということなのか。
「デモ、イマハオカネノヨユウガ」
2人とも気に入ったのか、名残惜しそうな顔をしながら樽の方へと剣を戻してしまった。
彼らの腰に下がっている剣へと目を向ける。いつも魔物を狩ってきてくれる彼ら。万が一、この剣が壊れた時、予備の物は今はない。例え、身体能力が凄いとはいえ、それだけでなんとかなる相手ばかりではないはずだ。
私の頭に、大きな体のブラックグリズリーの姿が浮かんで、背筋がゾッとした。





