第249話 エルフは臭いらしい
翌日。朝も早めにスーパーカブで立ち枯れの拠点へと向かう。
元々山の中なので、朝は比較的涼しい。それが、上着を一枚羽織らないと肌寒く感じるようになってきた。
ガズゥたちは、ログハウスが建ち始めても、長屋暮らしをやめない。
村人たちが来るまでは、ここで十分だというのだ。そうは言っても、徐々に寒くなっていくのだ。早めにログハウスを用意してあげないといけないだろう。
エルフの集団は、色々な物を見て興奮しまくって、その勢いでワインや缶ビールをがぶ飲みしまくった。おかげで『収納』に入れていた、けして多くはないお酒の在庫がなくなってしまった。近いうちに、また買い出しに行かねば。
結果、酔いつぶれたエルフたち。彼らの馬車の近くにテントを用意していたようだったのだけれど、東屋に放置してきてしまった。一応、ビャクヤとホワイトウルフたちが護衛(という名の監視)してくれるというので、お任せしてしまったのだ。
池の手前、ハーブ畑の脇にスーパーカブを止めていると、スーパーカブの音に気付いたのか、ガズゥが長屋から飛び出してきて抱きついてきた。
「おはよう!」
「おはよう~、昨夜は煩くなかった?」
「大丈夫です」
苦笑いしながら返事をしてきたのはケニー。結界の中に入れないのを知っているので、結界のそばで動かずに立っている。ラルルも大あくびしながら起きだしてきた。
結局、彼らは昨夜はエルフたちには一歩も近づいてこなかった。どうしてなのか聞いてみると。
「エルフは、ちょっと苦手なのです」
「そう、そう。なんというか……神々しい? 恐れ多い?」
「匂いが、臭いっ!」
「く、臭い!?」
ガズゥが顔を顰めながら叫ぶ。
いや、全然臭くないけど、と思ったら、獣人からすると薬臭い匂いがするらしい。
そうだったかな? と振り返ってみても、印象にはさほど残っていない。私には感知できない匂いのレベルなのかもしれない。だったらハーブの匂いは? と思ったら、それよりも鼻の奥が痛くなるほどに刺激する匂いなんだとか。
「臭いとは、酷い」
「あ、おはようございます」
爽やかな笑顔で登場したのは 東屋からではなく、馬車の方から歩いてきていたレディウムスさん。アルコールの匂いもなく、お風呂にも入ってないだろうに、むしろミントのような匂いすらする。
気が付くと、獣人たちはいなくなっていた。ガズゥにいたっては、さっきまで抱きついていたのに。そんなにかい。
「いやぁ、昨夜は失礼しました……ところで、それは」
うわ、スーパーカブに目を付けたみたい。目が、目が怖いっ!
しまったなぁ。すぐに『収納』しておけばよかった!
「あ、えと、移動用の乗り物、です」
「ほぉほぉほぉ!」
ものすごい勢いでスーパーカブに突撃しようとして。
「アガッ!?」
……結界に激突した。
「サツキ様! なぜ、なぜ入れないのですかっ!」
すぐに立ち上がり、叫ぶレディウムスさん。ぶつかった顔が赤くなってて、エルフの荘厳な雰囲気の欠片もない。
「いや、まぁ、結界がはってありますからね」
「ハッ!?」
慌てて、周囲を見回して、大きく目を見開く。
「……私がまったく気付かないとは」
ボソリと何か呟いてから、視線をユグドラシルへと向ける。
「なるほど。そういうことなのですか」
何がそういうことなの?
私が首を傾げながらレディウムスさんを見ていると、ニッコリ(いや、ニンマリか)笑顔を浮かべながらちょいちょいと手招きをされた。
何だろうと近寄ろうとした時。
「……五月に触れるな」
いきなり、不機嫌な顔をしたエイデンが、レディウムスさんの隣に現れた。





