第245話 材料の供給先
石壁の目安の線を引いたはいいものの、風でも吹けばすぐに消えるのは目に見えている。とりあえず、目印になるものを、と、手持ちの木材を使って、大きな木製の門扉を『タテルクン』で建てる。横幅6m×高さ3mくらい。これなら石壁と合わせてもいいんじゃないかな。
『おーい、五月ぃ、木はどこにおけばいいのだぁ?』
エイデンの声が聞こえたので、空を見上げると、ドラゴンタイプのエイデンが両足で木材を掴んでいる。なにより、掴んでいる木材の量に唖然となる。それも、足で掴み切れてない木もあるのに、落ちない。どういう仕組みになってるの!?
『五月~?』
「あ、えと、そこ、そこの家の前にお願いっ!」
『わかったぞ』
ドシンドシンッという音とともに地面に置かれる木材。
しかし……これ、もう加工されてない? 枝打ちされてるし、長さも揃ってる。
「エイデン」
「なんだ?」
すでに人の形に戻っているエイデンが私の隣に立つ。声の感じからもご機嫌さが伺えるんだけれど。
「これ、どっから持ってきたの?」
「うん? 落ちていたから拾ってきただけだぞ?」
「いやいやいや、これ、誰かが加工してたヤツでしょっ!」
「そうなのか? 地面に転がってたから、持ってきたんだが」
「ダメダメダメ! それって、これから使うから用意してあったヤツ!」
「まぁ、いいではないか。ガズゥたちが枝打ちする手間が省けるんだし」
「そういう問題じゃないって……」
「ん~、でもなぁ」
「でもじゃないよ……」
「戻すのは嫌だぞ。めんどくさい……それよりも、他に必要なモノはないのか?」
「エイデンッ!」
「むぅ……」
しばらく睨み合っていると、エイデンの方が折れて、不機嫌そうに話し出す。
「……これは、ドグマニス帝国から取ってきた」
「ドグマニス帝国?」
「そうだ。放っておけば、これは奴らの武器になり、防具になり、城や建物となる」
「でも、それだって、一般の人の生活にだって欠かせないものじゃ」
「これは、平民たちには手の届かない木材だ」
「え……そんな上等な木ってこと?」
確かに、真っすぐに揃った木材であるのは、一目でわかる。
もしかして、あのレンガもかっ!?
「五月、奴らは獣人、それも特にガズゥを狙ってる」
珍しく厳しい顔つきのエイデンが、私の目を見ながら、そう言った。
「……どういうこと?」
「風の精霊たちに聞いてみるといい。時に、奴らは、人族の噂も教えてくれる」
それだけ言うと、再び空へと飛びあがり、どこかへと飛んでいった。
「なんか、思った以上に厄介ごとになりそうな予感しかしないんだけど……」
思わず、顔を顰めてしまう私なのであった。
* * * * *
「ほう、随分と大人しくなったものだ」
イグノスが椅子に座りながら、球体に映るエイデンの姿にニヤニヤと笑っている。
「聖女が生きてた頃は、破壊一辺倒だったヤツがのう~。成長したものだ」
かつての古龍の暴走を思い出して、苦笑いへと変わる。
「ふむ、せっかくだ。古龍の成長の祝いに、五月にボーナスを付けておくか……上手く使ってくれるといいんだが」
フフフッと笑いながら、イグノスは再び球体へと目を向けるのであった。





