第237話 エイデン、木を植える(?)
ケニーとラルルは、ネドリさんにすぐにたたき起こされたけれど、真っ白な顔色は変わらない。よく真っすぐ立っていられるものだ、と思うほど。
「大丈夫?」
私が声をかけても、コクコクと頷くだけ。ネドリさんもけっして顔色がいい感じではない。
そういえば、ホワイトウルフたちも最初の頃はエイデンに怯えていた気がする。もしかして、獣人たちもエイデンの存在にあてられているのだろうか?
私から見たら、格好は普通のイケメンなんだけど。
もしかして、疲れが出たのかな?
「よければ、少しここで休んでいてください」
「あの、五月様は」
「アレの片付けをしないといけないんで……エイデン、いいかな」
「ああ!」
「俺も行くっ!」
若さのせいか、ガズゥは元気だ。
東屋を出てエイデンが持ってきた木のところまでやってきた。すごい大木。うちの山に生えている木々も、けして小さくはないはずだけれど、それよりも立派。たぶん、私が3人いたとして抱きついても手が届かないくらいの幹の太さがある。
枝ぶりも、まるで屋根のように枝が張っていて、木の下からじゃ空も見えない気がする。雨宿りにはいいかもしれない。
それに、太い根っこがうじゃうじゃと波打ってる。細い根ですら、私の二の腕くらいの太さがある。某アニメの空飛ぶ島の崩れたところから生えていた根っこを思い出す。
それにしても、よくもまぁ、ここまで綺麗に抜いてこれたものだ。
「……ずいぶんと大きな木を持ってきたのねぇ」
「せっかくなら、いい木がいいだろう?」
「まぁ、そうなんだけど……これ、どうやって植えるのよ」
「それは任せておけ」
自信満々のエイデンに、どこに植えたいのか聞かれる。
まさかこれほどの大木を持ってくるとは予想していなかったので、どうしたものか、と迷ったのは一瞬。
「あっち側」
私が指さしたのは、うちの山の方ではなく、隣の山側に近い池の端。こちらの方が北側になるのもある。南側(うちの山のある方)に植えたら、池全体が影になりそうなんだもの。
「よし、わかった。ガズゥ、五月と一緒にいろ」
「はいっ」
ぐりぐりとガズゥの頭を撫でるエイデンの笑顔に、ちょっとだけドキッとする。
うん、イケメンだからね。普通にときめくことはあるよね。と、自分を誤魔化す。
「ふんっ」
ドゴンッ
エイデン、指先をちょんと振っただけなのに、地面に穴が空いた。
「ふんっ」
ガサガサガサっと盛大に葉の揺れる音と共に、大木が浮かび、地面の穴に根っこの方から入ったかと思ったら。
「ふんっ」
どこからともなく土が現れて、完全に根っこの部分は隠れ、ずっとここに立ってました、という様子で大木が立ってますよ。
その間、3分もかかっていない。カップラーメン、できあがってないよ、きっと。
「よし、あとは五月、土の精霊に頼んでおけば、ここにしっかり根付くと思うぞ」
ニカッと満足げな笑顔のエイデンさんです。
……はぁ。
うん、そういえば、この人は、人じゃなかったね。
これが、こっちの常識と思っちゃダメだよね。
だって、その証拠に、いつの間にか復活して私たちの後ろに立っていたネドリさんたちが、あっけにとられた顔してるもの。
「うん、わかった。ありがとう、エイデン」
「いや、五月が喜んでくれるなら、俺も嬉しい」
「ちなみに、これって、なんていう木?」
「これか?」
トントンっと大木の幹を軽くたたくエイデン。
「これは『ユグドラシル』の孫の木だな」
うん?
なんか、どっかで聞いたことがある名前。
なんとなく不安になってタブレットを取り出して『鑑定』してみる。
「……世界樹」
私の頭の中が真っ白になったのは、いうまでもない。





