第236話 やる気満々な若者たち
同じような背丈で黒い髪をした、若い狼獣人の2人。
スラリとしているけれど、モデル体型とは違う、鍛えられている感じがする。男の子の方は少しくせ毛っぽいのに対して、女の子の方は真っすぐな髪をポニーテールにしている感じ。
男女の違いはあるものの、似たような顔立ちをしている。兄弟? かと思ったらどうもイトコ同士だという。
「俺はケニー、18才です」
「あたしはラルル、18才です」
なんだろう、このキラキラは。彼らが何を期待しているのか、不安になる。
「この2人は、冒険者としても活動してまして、ちょうどガズゥたちが戻ってきていた時に里帰りしていたんですが……」
「ガズゥ様から聞きました! こちらに古龍がいると!」
「冒険者であれば、誰でもが挑戦したいのがドラゴン!」
「ぜひぜひ、古龍に挑戦させてくださいっ!」
ネドリさんの言葉を遮り、身を乗り出してくる2人……うん、ちょっと落ち着こうか。
「ばっかだなぁ、ケニー、ラルル」
ガズゥが呆れたような声をあげる。
「お前たち程度じゃ、エイデン様に触れるのも無理に決まってるじゃないか」
「何言ってるのよ」
「そうだぞ、俺たちはこれでも、もうすぐAランク目前と言われてるんだぞ!」
「一矢報いるくらい、できるわよ」
やる気満々の彼らだけど、ネドリさん的には、ガズゥのお守り(?)をさせたかったんじゃないのかなぁ、と思ってネドリさんに目を向ける。
あ、ちょっと怖い笑みを浮かべている。おい、気付け、若者たちっ!
ネドリさんの表情に気付かず、3人がどんどんヒートアップしていく。
「お前ら……」
ネドリさんの低い声から、これは雷が落ちる、と思った時。
ドシンッ
雷より先に、大きな地響きがした。
「な、何!?」
慌てて東屋の外を見ると、大きく立ち昇った土煙の先……池の脇にでっかい木が1本落ちてた。
うん、落ちてた、が近い表現なんだろう。何せ、根っこが剥き出しなんだもの。
この状況に、思い浮かぶのは彼しかいない。
私が呆れた声をあげる前に。
「お前ら、何者だ」
お怒りモードのエイデンが、いつの間にか私の背後に立っていた。
「あ……エイデン、お帰り」
「ああ」
なんかまずそうだぞ、と思った私は、彼の苛立ちを逸らすためにも、あの木のことを聞こうと思ったんだけど。
「エイデン様!」
ガズゥが勢いよく彼に抱きついた。
「ガズゥか! もう戻ってきたのか?」
「もうとかって……そうです、戻ってきました。五月様をお護りするために!」
「ほほぉ、随分と生意気なことを」
そう言いながらも嬉しそうなエイデン。指先でつつかれて、ガズゥの方も嬉しそうだ。
「で、そいつらは?」
う。なんで、こうも切り替えが早いかね。
辛辣な響きの声に、私もため息がでる。
「……少し、落ち着いて、エイデン。ガズゥのお父様と、その部下? みたいな人達よ。ほんとに、すみませんね」
ネドリさんの方へと目を向けたら……すっごい青ざめた顔をしてる。若者2人の方は立ちながら気を失っていた。
……獣人って、器用なことをするもんだね。





