第235話 ネドリからの贈り物とガズゥの望み
彼らが荷物から取り出して持ってきたのは。
「これは……魔石ですかね?」
私の掌に乗るくらいの大きさのピンク色の魔石が2個。不意に『ピンクトルマリン』が思い浮かぶ。光の加減で、中の濃淡がはっきりするようになっているようだ。
手渡されて、思った以上に重いのに驚く。
「ええ。これは私が昔、まだ冒険者だった頃に狩ったレッドワイバーンの魔石です」
「ワイバーン?」
「はい。羽のついたトカゲのようなものです。大きさにしても、大きめなフォレストボア程度で、サイズ的にも小さかったので私単独でも狩れたんですがね」
苦笑いしているネドリさん。
大きめなフォレストボアって、前にエイデンが狩ってきたヤツくらいかな。いやいや、それ、小さくはないよね?
「これって、大事なものじゃないんですか?」
エイデンやビャクヤが狩ってくる魔物の魔石、大きいのとかって使い道ないから『売却』してたけど、けっこういい値段になった記憶が。
「いえ、ガズゥたちが世話になったのです。これくらいのモノでも足りないですよ」
そう言って、再び若者たちへと目を向けると、綺麗なオフホワイトの毛皮の束がまとめて渡される。ガズゥたちの村の北にある山に多く生息しているユキシロと呼ばれるウサギの毛皮だそうだ。ホワイトウルフの毛よりも細くてふわふわしてる。肌ざわりが抜群だ。
その他にも手作りと思われる革製の手甲みたいなのやアクセサリー、草木染なのか、淡い青や緑、黄色の布(麻かなぁ?)がドンドンテーブルの上に載せられていく。
確かに若者たちは大荷物だったけれど、こんなに入ってたの?
「最後に」
そう言ってネドリさんが3つの革袋が差し出された。
受け取った私は革袋の中をのぞいてみる。
「……種でしょうか」
「はい。ガズゥから五月様は植物を育てるのがお好きだと聞いたので、我々の住む村の周辺の果実の種をお持ちしました」
1つは桃の種くらい、もう1つは梅の種くらい、最後は鳥の餌みたいに小さい。
「ジェガの実の種、ネディラの実の種、ブラッドシードの種です」
……うん。なんの種かわかんない。
しかし、わざわざ持ってきていただいたモノなので、ありがたく受け取る。
「それと……大変、申し上げにくいんですが……」
「五月様! 俺を五月様の騎士にしてくださいっ!」
隣にいたガズゥが立ち上がって、いきなり頭を下げた。
「は?」
顔をあげたガズゥは、かなり必死な顔になっている。
きし、って騎士ってことよね? こっちの世界には普通にいるんだろうけれど。
「五月様をお護りしたいのです!」
キラキラした目で見つめられる私は、困った。
子供のガズゥに護られるって、どうなの? いや、彼ら獣人の身体能力の高さは、散々見ているけど、やっぱり、ガズゥはまだ子供だよ?
そんな私の困惑に気付いたのか、ネドリさんが苦笑いを浮かべ、彼の頭を軽く押さえ込む。
「すみません。ガズゥが、どうしても五月様にお仕えしたいと申しておりまして」
それはサリーみたいに雇うってことだろうか?
いや、仕えるとかって、別に私は貴族とかでもなんでもないんですけど。
「ガズゥは、まだまだ子供じゃないですか」
「確かに息子はまだ幼く、五月様をお護りするのは心もとないのですが、彼らも、お傍に置いていただきたく」
先ほどからネドリさんの背後にいた若者2人が、ガズゥに負けず劣らず、キラキラした眼差しで私を見つめていた。





