第231話 立ち枯れの周辺の再開発(2)
土煙が落ち着いて目の前に現れたのは、若干崩れた感じの瓢箪のような形の大穴。
深さは2メートルはないくらいか。私が入ったら、すっぽり埋まるだろう。そこに、細い水路から水がちょろちょろと流れ込んでいる。まだ地面を濡らす程度で、溜まってはいない。
しかし、精霊たち、真っすぐな水路はできるのに、穴は四角ではないのは、これ如何に?
「なんだ。そんなことなら私に言ってくれれば、もっといい穴を作ってやるぞ?」
私の隣に立って、顔を覗き込みながら言ってくるエイデン。間近で見ても、相変わらずのイケメンだ。
最近は隣の山のお城に籠っていることが多いが、たまに旨い肉(魔物)を譲ってくれたりもする。ストーカー具合は……多少はマシになったんだろうか?
『そうだぞ? エイデン様なら、もーっとデカいのだって作れるぞ?』
ドヤ顔で言うのはノワールだ。
別にお前さんが凄いわけではなかろうに、やっぱり、親みたいな存在のエイデンには、何かしらの思い入れがあるんだろう。
この子は私の従魔のはずなんだけどなぁ。
『しつれいね! わたしたちだって、やろうとおもえばできるわよ!』
『そうだ、そうだ!』
騒々しいのは土の精霊たち。
いや、私にはあれで十分なのよ、本当に。
「五月、もっと大きくしてやろうか?」
「いえ、結構です」
エイデンに任せたら、とんでもなくデカい湖でも作ってしまいそうだ。
「それで、この池はどうするんだ?」
「うん? いや、ただ垂れ流しってのは嫌だっただけなんだけど」
「ふむ、ここに魚でも住まわせるか?」
「魚?」
確かに、そこそこ大きい池ではある。あちらだったら、錦鯉が泳いでたら、なかなかいい感じなのかもしれない。いや、観賞用よりも、食べられる魚の方がいいか?
――水草とかもあったほうがいいかな。
――スイレンとか浮いてたらいいよね。
――中に石とかいれて日陰があるほうがいいのか?
――だったら、この池周辺も木陰を作ってあげないとかも?
まだ水の溜まらない穴を見つめながら、妄想が止まらない。
「おーい、五月、聞こえてるか?」
「ハッ、あ、ごめんごめん」
「ふむ、魚は欲しそうだな」
「そうねぇ……それよりも、まずは石が欲しいんだけど」
「石?」
「そう。魚の隠れ家になりそうな、そこそこ大きめな石」
「ふーむ」
腕を組みながら考え込むエイデン。
『城の裏手の岩を持ってきたらどうですか?』
ノワールの言葉に、エイデンの視線が城のある山の方に向かう。こっちからは木の影になって城は見えない。
「いいな。じゃあ、いくつか運んでこよう」
そう言ったと同時に、エイデンがいきなり飛んでいった。
『僕もいきますー!』
追いかけていくノワール。
この穴より大きい岩、持ってこないでね、と心の中で祈る私なのであった。





