第226話 異世界のハチはデカかった
稲荷さんにお願いして1週間。
さすがにすぐには連絡は来ないし、当然、人も来ない。
なんでも稲荷さんのお宅ってば、ガズゥたちと同じ国にあったらしい。といっても、ガズゥたちの村とは真逆、なんちゃら帝国(覚えられんがな)の方に近いんだとか。
まだスノーが戻ってきていないことを考えても、相当、遠いのは私でも予想がつく。こればかりは気長に待つしかない……けど、冬になる前には来てほしいものだ。
その間、私は山の草刈り三昧だ。
ちょっと草刈りしても、すぐに伸びてくるのは自然の力の強さってもんなんだろうけど。おかげでKPも地味に増加中。いや、精霊たちのおかげで、すでにアプリ1個分は貯まってる。急ぎで使う予定はないので、このまま保留中。
そんな中、大きなハチの巣を見つけた。ラグビーボールの倍くらい?
背の高い木の枝に下がっている様子と、私でも目視できる、かなり大きなサイズのハチの姿に、クマンバチとか、スズメバチみたいなのだったらどうしよう!? と思ったら、普通にハチミツを集めるハチだった。『鑑定』感謝。
あれだけの大きさであれば、たっぷりハチミツを貯めこんでいそう。
――ハチミツ分けてもらえないかなぁ。
なんて思ったけれど、さすがに、虫よけの防護服みたいなのは持っていないし、下手に触れたら、壊しそうだし、追っかけられたら嫌だし、で断念することにした。
「うーん、残念」
『なにが、ざんねん?』
いつのまにか肩に座っている風の精霊。それも2人も。なんか、かわいい。
「ハチミツをね、分けてもらいたかったけど、あんなに高い所だし、ハチの巣を壊しちゃいそうだなぁってね」
『なんだ、だったら、ほしいっていえばいいのに』
「へ?」
『さつきにだったら、あのこたちもわけてくれるよ?』
「は?」
私は、虫とも会話ができるのか!?
『おーいっ』
風の精霊が声をあげると、飛び回っていたハチの動きが止まる。え、やだ、恐い。
『おーい、だれかー』
もう1人の精霊の呼び声に、ハチの巣の中から1匹、他のとは一回り大きなのが出てきた。もしかして、あれは女王バチか!?
『あのね、さつきがハチミツがほしいんだって』
『わけてあげてよ』
「いやいやいや、今すぐには無理でしょ!?」
私だって、ハチミツを入れるような器はないし!
『うん、うん、なるほどね』
『えー、なにそれー』
『まぁ、きみたちもたいへんだよねー』
私を放置して、彼らの間で話がすすむ。
よかった。私、虫とは会話できない模様。そこまでいったら、人間やめてる気がするもんね。
『そっかー、じゃあ、きいてみるよ……あのね、さつき』
「何?」
『なんかー、さいきん、でっかいゴモクハチっていうのが、このやましゅうへんにはいりこんできたんだってー』
「ゴモクハチ?」
『そー。そいつらが、はなのみつをとりにいくはたらきばちをたべちゃうんだってー』
げ。肉食のハチかい。
『このやまのなかににげこめば、あいつらははいってこないらしいんだー。でも、おおくのはなは、やまのそとにあるからー、おそわれるのをかくごで、やまからはなれてるんだってー』
「なるほど。確かに、今は花の咲いてるのって、立ち枯れの拠点にあるハーブくらいだもんね。ログハウス近くのバラも、もう散っちゃってるし」
『そうそう、はるさきははながいっぱいあったんだけど、いまのじきはねー』
緑の美しい山ではあるんだけど、ミツバチたちにとっては、それでは足りないということね。
『だからー、おはなをたくさんうえてくれたらー、はちみつをわけてもいいってー』
「え、本当!?」
目の前の女王バチ、くるくると回ってる。それは、イエスということか?
「じゃあ、ついでに養蜂箱用意するわ。そうすれば、今あるせっかく作ったハチの巣を壊さなくてもいいしね」
私の頭の中には、朝やってた某テレビ番組の養蜂箱が頭に浮かんでいる。
四角い枠をいくつも重ねてあるやつで、ハチの巣が育ってきたらどんどん重ねていき、上のものから切り離していくタイプ。あれ、ちょっとやってみたかったんだ。
「それに、お花畑ね。これからの季節に、何がいいかわからないけど……後で調べてみるわ」
女王バチがぐるんぐるん回りだしたせいなのか、他のハチたちまで、私の周りをブンブンと飛びまくってる。
まさか、女王バチは、私の言葉がわかるの? 異世界のハチ、すげぇ。
でも、ちょっとデカい分、かなり怖いかな。うん。





