<イグノスと稲荷>
真っ白な世界の中、いくつかの透明な球体が浮かんでいる。その中には、様々な風景が浮かんでは消えていく。それを見つめるのは、白いチュニックを着た、外見は小学生くらいのイグノス。不満そうな顔を浮かべつつ、一つ、一つを流していく。
「イグノス様~!」
イグノス以上に機嫌の悪そうな稲荷が、白い靄の中から現れた。
「……なに?」
「う、随分とご機嫌がよろしくないようで」
「ふんっ、まったく、過去に学ばない者の多いことに、イライラしてるだけさ」
「ああ……まぁ、どこにでもいますからね……それよりもです!」
稲荷はイグノスの目の前に白いソファを生み出すと、ズドンッと腰をおろす。
「望月様の敷地、増えてるみたいなんですけど」
「え?」
「ですから、購入された山以外も、アプリの地図に表示されてるんですって」
「えー!?」
イグノスも予想していなかったのか、慌ててイグノスの手元に大きめなタブレットが現れる。
「……ほんとだ。ああ、ここまで手入れしてくれてたんだ。流石、五月ちゃん」
「で、その土地の代金は」
「うん?」
「ですから、購入代金です。望月様が気にされてたんです。一応、あの山の代金はいただいてますから」
「え、あー。そうか、そうか……うーん、タダでよくない?」
投げやりにいうイグノスを、責めるように見る稲荷。
「イグノス様がそうおっしゃるんでしたら、そうお伝えしますけど……管理費用のお支払いはどうします? それはさすがにタダはダメですよ」
「あー、今はいくら支払ってるんだっけ?」
「月に23万です」
「ん~、じゃあ、キリのいい30万で、どうよ」
「はぁ……わかりました。ちなみに、今後も開拓された場合はその分上乗せでよろしいんですよね」
「いいよ~」
「あと、新たに購入希望があった場合なんですが」
「え、そんな話、出てるの? こっちはありがたいけど」
「いえ、まだ出てませんよ。万が一です。その場合、こちらの世界の通貨でもかまいませんかね」
「どうして~?」
「望月様の日本の銀行での預金残高なんですけど、色々とあちらで買い物しているので減る一方なんですが、こちらの世界での魔物などの売却益がかなりの金額になっているようなんですよ」
「ふむふむ~。おお、凄い。なんで、こんなに?」
イグノスのタブレットに、五月の預金残高と、異世界での残高が表示されている。預金残高は、なんだかんだと買い物をしていて既に100万近くになってしまっている。その一方で、異世界のは500万Gを超えていた。
「ホワイトウルフたちや、古龍からの貢物の結果ですよ」
「ああ、なるほどね」
「残念ながら、日本円への換金はできませんので……」
「えー、やってあげればいいじゃん」
「……本気で言ってます?」
「ごめんなさい」
稲荷が大きなため息とともに、眼の前に大きな画面……イグノスの世界地図を表示する。
「望月様の山の周辺は、どこの国にも所属はしておりませんが、面倒ごとを持ち込んでくる連中はいくらでもおります。古龍が彼女を守護してはおりますがね」
「ふむ……」
イグノスは一つの球体に目を向ける。そこに映るのは、豪奢な服を着た昏い目をした年老いた男。その周囲に映る男たちも、物騒な顔つきをしている。
「まぁ、彼女が欲しがったら、構わないよ」
「よかった。日本円じゃ、税金とかの問題が面倒だったんですよ」
「……お前が面倒なだけじゃん」
ニヤリと笑った稲荷に、イグノスは呆れたようにそう言った。





