第217話 寂しがる暇はない
ガズゥたちが帰って3日。
喪失感で、何も手が付かない……かと思ったけど、そんな暇はなかった。
「キャー! やめてー!」
ログハウスの敷地の畑が、獰猛なちびっ子たちによって荒らされているのだ!
「わっふ、わっふ(キャッ、キャッ!)」
「わわんっ、わわんっ!(まてまてー)」
「わふー、わんわんっ!(ねーね、まつの~)」
「あー!!!」
ガズゥたちがいなくなったこともあって、シロタエが気を利かせたのか、ちびっ子を連れてやってきたのだ。
ビャクヤとシロタエの子供の3匹。ハクとユキの弟妹たちだ。
初めて3匹を見た時は、3匹全員を抱きかかえられるくらいには小さかったのに、今では柴犬サイズまでになっている。
初めて山頂から立ち枯れの拠点まで下りてきたのか、見慣れぬ風景に興味津々であちこち見てはいたし、シロタエのところからあまり離れることもなかった。私が手を伸ばしても、身を引くくらい。
畑仕事や草刈りなんかをしている間、彼女たちがそばにいる間は大人しかったのだ。
「がふっ、ふんふんふんっ!」
「いやぁぁぁ、壊れる、箒、壊れるからっ!」
ログハウス脇に立てかけておいた竹箒に噛みつく子もいれば。
「わふわふん」
「あああ、びしょびしょにぃぃぃ」
人工池に飛び込む子もいれば。
「ふんふんふんっ」
「ぎゃぁぁぁ、穴、掘らないでぇぇぇっ!」
立ち枯れに向かう出口に植えた柿の木の根本を、がっしがっしと掘る子もいる。
「はぁ……、ビャクヤたち、早く帰ってきてよぉ……」
叫びすぎて喉を枯らした私は、思わずアウトドア用の椅子に腰をおろした。
こんな状況になっているのは、ビャクヤたちがエイデンと一緒に狩りにいっているのだ。それも、今残っているちびっ子以外全員で。
――どんな大物を狩りに行くのよっ!
内心、思わずにはいられなかったが、いつもちびっ子の面倒を見ているシロタエのストレス発散も兼ねてるのだろう、と思ったので、うちで預からない、という選択肢はない。
ないんだが……これ、本当はちびっ子の方のストレス発散なんじゃないのっ!?
その上、ちびっ子たちとは従魔契約してないから、何言ってるかさっぱりわかんないっ!
『こらぁぁぁ! あなほっちゃだめぇぇっ!』
『みず、みずがよごれるでしょー!』
私以外にも土や水の精霊も注意してるんだけど、聞く耳を持たない!
いや、彼らに精霊の声がわかるのかも、わかんないけど。
「あー、これはもう、ドッグラン的なものを作った方がいいんじゃないのぉ?」
タブレットの画面で『ヒロゲルクン』や『タテルクン』を開いて見るけれど、そんなメニューがあるわけもなく、もう単純に山のどこかをならすかなんかしないとダメなんじゃないか、と思う。
暴れまくるちびっ子をよそに、私は『ヒロゲルクン』の地図を開く。
「うん? あれ? 地図の範囲が広がってる……?」
前はデフォルトで、購入した山の部分しか出ていなかったのに、範囲外の立ち枯れの拠点のところまで表示されるようになっている。
「買ってないけど……もしかして手入れしたりすると、その範囲に入っちゃうのかな」
まさか、買った扱いにはなってないよね?
稲荷さんから請求書はもらってないけど……神様だけに、勝手に自動引き落としなんてことは……。
「むむむっ、ちょっと稲荷さん相談案件だわね」
眉間に皺を寄せていた私。
「わんわんわんんっ!」
「わんわんっ」
「わふーっ!」
「ぐわっ!」
突然とびかかってきた3匹に、のしかかられ、潰されてしまうのであった。





