<獣人たち>
コントルたちは曇天の下、荒野を駆けていた。これで晴天だったら、ここまで走り続けることは出来なかっただろう。
少し先に、森のへりが見えてきたので、6人の獣人と1匹のホワイトウルフのスピードが落ちた。
「少し遅いが、ここで昼休憩するか」
コントルの言葉に、全員が頷く。特に子供たち3人は、大人のスピードになんとかついてこれたという感じなので、肩で息をしまくっている。ホワイトウルフは長い舌を出しながらも、まだまだ余裕がありそうだ。
一緒についてきているのは、スノーだった。
五月から頼まれたわけではないが、何かと狩りを一緒にやってきていたことと、やはり、フェンリルの血を引くガズゥのことが心配だったので、途中まで見送るために同行していたのだ。
大きな木の根元に腰をおろすと、ちびっ子3人はさっそくリュックの中から水筒をとりだした。使い方は、五月に教えてもらっている。蓋をパカッと開けて、備え付けのコップに注ぎ込む。
「冷たっ!?」
テオの声に、皆の視線が向いた。
「ガズゥ、それはなんだ?」
「叔父さん、これ、水筒。五月様に頂いたんだ」
「すいとう?」
「うん、水袋の代わりさ。この中に水が入ってるんだ」
カラカラという音がするのは、水筒の中の魔石と、氷がまだ溶けずにいるからだ。
ガズゥはリュックからシルバーのアルマイト製のマッコリカップを取り出して、水筒の水を注いでスノーの前に出すと、スノーは旨そうに舐め始める。
これも五月から「お古で悪いんだけど」と言いながら渡された物だ。
「……色んな物をいただいてしまったようだな」
コントルはビニール袋の中の苗木にも目を向けると、申し訳なさそうな顔をする。
「うん、だからね」
ガズゥの顔が、グッと厳しいものに変わる。
「俺、もっと強くなって、五月様をお護りするんだ!」
「……護るといっても、エイデン様がいらっしゃるだろう」
あのゾッとするような金色の爬虫類の目を思い出し、コントルがぶるっと震える。
「そりゃぁ、エイデン様は強いよ? でも、エイデン様は結界の中には入れないんだ」
「……そうなのか?」
「それに、エイデン様がそばにいない時だって、あるかもしれないじゃないか」
ガズゥは山があった方へと目を向ける。そこにはもう、山の姿はない。
「だから、俺が五月様をお護りするんだ」
「だったら、おれも~」
むしゃむしゃとドライフルーツのマンゴーを食べていたマルが手を上げた。
「……だったら、おれも」
空になったコップの中を見つめたテオも、小さな声で言った。
「五月様は、いったいどういったお方なのか……」
コントルは、子供たちの言葉に困ったような顔になる。
『フフン、五月様は、精霊たちが集まるくらいの聖女様だからな。ガズゥたちも一緒にいたくなる気持ちはわかるよ』
伏せた状態で、足に顎をのせたスノーがボソリと呟く。
『まーねー。さつきさまにたのまれなきゃ、こいつらといっしょにくるきはなかったしー』
『そーよねー』
『でもさ、さつきさまのなえぎがあれば、もっともーっとなかまがあつまるよね?』
『もっともーっと、あつまったら、もっともーっと、すみやすくなるねー』
『ねー!』
『あのこのすいとう、おみずがなくなっちゃった? ふやさなきゃー』
『それそれ~』
『あー、あふれるからきをつけてー』
土の精霊と水の精霊の光の玉がいくつか、のんきに苗木と水筒の周りを飛んでいるが、獣人たちには見えていないし、声も聞こえてはいない。
「あ、あれっ!? み、みずがぁぁっ!」
森の片隅で、マルの驚きの声が響いた。





