第215話 旅立ちの朝(1)
朝靄で窓の外は薄っすらと白くなっている。
今日はいよいよガズゥたちが村へと帰る日だ。
昨夜は、長旅だったことと、色々と驚くことが多くて疲れているだろうから、と、獣人の皆さんは早めに休んでもらった。
一瞬、彼らを結界の中に入れるべきか迷ったのだけれど、前回のキャサリンたちのお迎えに来た人々のこともあったので、結界の外の東屋のあたりで野営してもらうことにした。悪い人たちには思えなかったけれど、念のため。そこは彼らも納得してくれた。
私は起き抜けに水を一杯だけ飲むと、ガズゥたちに渡す諸々の荷物や、朝食に使う食材を『収納』して、ログハウスを出る。朝もまだ早いせいか、少しだけ肌寒い。
最近ノワールは、エイデンのところとうちを往復していて、今朝はエイデンのところに行っているようだ。こうなったら、別に私の従魔じゃなくてもいいんじゃない? と思うんだけど。
スーパーカブのエンジン音が、静かな山に響く。
もしかしたら、ガズゥたちも目が覚めてしまっているかもしれない、と思ったら、案の定、3人ともがすでに顔を洗って待ち構えていた。
「おはよう~」
「おはようございますっ!」
「おはようございます」
「おーはーよー」
ガズゥとテオは元気に挨拶してきたけれど、マルはまだ眠いみたいだ。てっきり、大人たちのところで一緒に寝てるのかと思ったら、長屋で3人で寝ていたみたい。
私たちは、長屋の前にある畑から、トマトとキュウリをもいで、ささっと洗ってざるに盛る。土の精霊たちのおかげで、今日もなかなか立派な出来だ。
私たちはコントルさんたちがいる東屋の方へと向かう。テオとマルは猛ダッシュで先に行ってしまったけれど、私とガズゥは野菜の載ったざるを抱えながら、のんびりと歩いていく。
「五月様」
「うん?」
ガズゥがくぐもった声で話しかけてくる。
「……また、ここに来てもいいですか?」
「いいよー」
「ほんとに?」
「ちゃんと、お父さんたちに許可とってからね」
「きょか?」
「そ、行ってきていいよって、許してもらったら」
「……わかりました」
よっぽど、この山が気に入ったのかな。魔物はそうは多くはないけど、ホワイトウルフたちと、山を駆けまわっている姿は、確かに楽しそうではあったものね。
東屋に着くころには、コントルさんたちのテントも片付けられ、朝食の準備を始めていた。彼らは魔道コンロは持っていないようで、焚き火で串刺しの肉を焼いている。朝から重そうと思うのは、私だけなんだろうなぁ。
テオとマルは、ネーレさんの邪魔をしたようで、叱られている。
「おはようございます!」
「あ、おはようございます」
「これ、うちの畑で採れた野菜です。どうぞ!」
木製のテーブルにざるをドンッと載せると、私も朝食の手伝いに参加することにした。





