第212話 ダチョウじゃないよ
ハクたちを叱りつけるよりも先に、ついつい目の前の鳥の方が気になってしまうのは仕方がないと思う。だって、ハクの大きさを考えると、けっこう……いや、かなり大きいのだ。
彼らが捕らえていた鳥は、スピーディーと言われる鳥だとか。荒野を中心に生息する、その名前の通り、足の早い飛ばない鳥なのだそうだ。
――まさにダチョウ。
色が黄色ければ、某ゲームの鳥みたいかも。残念ながら騎乗はできないらしい。残念。
元来、集団で生活しているらしく、索敵範囲が広くて、なかなか捕まえるのが難しいのだとか。たまたま迷子になってたらしいのを捕まえることができたらしい。それでも、足の速いスピーディー。これを狩ることができたのは、ホワイトウルフたちにしても自慢なことのようだ。ガズゥたちも近寄って珍しそうにしているところを見ると、かなり貴重なのかもしれない。
ホワイトウルフたちが嬉しそうに尻尾を振っているので、ご褒美にジッパー付きの袋に入れていた生肉をあげた。
五体投地からようやく立ち上がったコントルさんたちが、恐る恐るハクのところにやってきた。
「フェンリル様、我が一族の者をお助け下さり、ありがとうございます」
コントルさんの言葉がわからないのか、頭をコテンとするハク。
「ガズゥたちを助けてくれてありがとう、だって」
『うん? 俺は助けてないぞ? 助けたのは親父とユキとスノーだ』
「今はハクしかいないし、わからないんだもの仕方ないよ」
私がハクの首の辺りを撫でながら説明していると、コントルさんたちが再び唖然としている。
「あ、あの、五月様はフェンリル様とお話ができるのですか?」
うん? あれ?
「もしや、ハクの言葉ってわかってない?」
「はい」
ガズゥたちも普通に会話してた気になってたけど、違った?
そばにいたガズゥたちに目を向けると、テオとマルは首を傾げている。
「えと、俺はなんとなくわかる感じです」
おずおずと答えるガズゥ。
「お、おぉ……」
これの違いはなんだ。
「恐らく、結界に入ることを許しているかどうかじゃないかな」
エイデン、安物ワインの入ったプラスチック製のコップを片手に、私の隣へとやってきた。そんなのでも絵になるとは。癪に障るイケメンめ。
「そんなことで?」
「そんなことというがな。五月の眷属ではないものの、お前の懐に入ることを許したのだ。それくらいあってもおかしくはなかろう。あとは可能性として、ガズゥがフェンリルの血筋というのもあるかもしれんな」
「な、なるほど」
なんか異世界、すげーな。
「さ、五月様はいったい……」
今度はコントルさんが私の方を恐る恐る聞いてくる。いや、私、普通の異世界人ですって!
……あ、それがすでに普通じゃないのか?
私が苦笑いを浮かべると、コントルさんはそれ以上は何も聞かずに頷くと、解体は任せてくれと、ホワイトウルフからスピーディーを受け取ると、軽々と3人でどこかに走っていく。





