第210話 ガズゥたちのお迎えがやってきた
クルミ、じゃなくてボルダの実を手に入れて3日ほど経った。
さっそく黒いポットに植えてみたら、翌日には芽が出て、今は10cmくらいの高さにまで成長している。土の精霊のやる気が伺える。
もう少し育ったら、立ち枯れの拠点側の斜面にでも植えようかと思っている。そこだったら、ガーデンフェンスや植えた果樹による結界の中だし、奥まった場所だけに誰も気付かないと思う。
ちなみに、ガズゥの言葉が気になったので、クルミ餅を作る前にタブレットで『鑑定』してみた。こちらでは元来、滋養強壮に効く物らしく、合わせる薬草によっては、その能力を著しく伸ばす効果があるそうだ。それも、エイデンが採ってきたのは、かなり魔力のこもったものらしく、魔力の少ない獣人たちの場合、1個でも食べたら体調を崩してしまうらしい。
鑑定前に、ついつい3個食べてしまった私。だって、エイデンがポンポン渡してくるんだもの。しかし、結果的には、まったく異常なし。エイデンなんて10個以上食べていたのに、平気だったのだ。
何が違うのかはわからないけれど、ガズゥたちに食べさせてやれないのは、ちょっと残念だった。今度、クルミでも買ってきてあげようかな、なんて思っていたんだけど、そうもいかなくなってしまった。
ガズゥたちのお迎えがやってきたのだ。
「五月様っ!」
立ち枯れの拠点の長屋で、大きめなざるの上に乾燥させていたラベンダーの花をポロポロと外している時だった。ガズゥの嬉しそうな声が聞こえて、目を向けると、ガズゥが走ってくる姿が見えた。
「迎えがっ、迎えが来ました!」
よっぽど嬉しかったんだろう。目がキラキラしている。
「思ったより早かったね!」
「はいっ!」
根拠もなく、あと1週間くらいかかるのかなぁ、と漠然と思っていた。
私はラベンダーをそのままに、ガズゥと一緒に歩いていくと、結界ギリギリのところに3人の大柄な獣人が立っているのが見えてきた。2人は男性で、1人は女性のようだ。近くに馬車のようなものも見当たらず、取るものも取り敢えず駆けつけた、といった感じなのか、かなり身軽な格好だ。
見る限り、3人ともガズゥのような銀髪ではなく、テオとマルのような黒髪に黒耳の犬系の獣人のようだ。男性はエイデンと比べれば小さいかもしれないが、十分に大きい。女性の方も、男性に劣らないくらいの背がある。すらりとした体型がモデルっぽくて、ちょっとカッコいい。
「コントル叔父さん、五月様をお連れしましたっ!」
おうおう、ガズゥってば嬉しそう。叔父さんと思われる男性は、駆け寄るガズゥを抱きしめている。テオとマルは、女性の方にへばりついている。
「貴女が五月様ですね。甥たちが大変お世話になったと聞いております」
3人の中でも一番大柄な男性が、胸に手を当てながら頭を下げてきた。
「いえいえ! 私だけではなく、ホワイトウルフたちのおかげでもありますから」
「はい、そう聞いておりますが……まさかあのホワイトウルフたちが、と半信半疑でして」
不思議そうな顔で周囲を見ている。私も同じように見回すけれど、今はホワイトウルフたちは近くにはいないようだ。
「皆さん、お疲れでしょう。よろしければ、あちらの東屋でお茶でもいかがですか」
私はガズゥの叔父さんたちをお茶に誘うことにした。





