第209話 エイデンのお土産は、なかなか厄介
翌日の昼頃には戻ってきたエイデンたち。いったいどこまで行ってきたのか、気になるところではあったけれど、どの子も怪我などしてなかったので、よかった。
いつも遠出をしたついでに魔物を狩ってくるエイデンなのに、今回は大きな麻袋いっぱいに、木の実を入れて帰ってきた。
「これ、何?」
一つ取り出してみる。大きさはピンポン玉くらいだろうか。固い殻に包まれている。さすがにこれはナイフとかでは剝くことはできないだろう。割るのだろうか。
これは食べ物なんだよね?
「これはボルダの実だ」
「ボルダの実」
「ああ、俺の好物なんだ」
嬉しそうにそのボルダの実を取り出し、指でつまんで……パリンと割った。まるで、琥珀糖の殻みたいにあっさりと。殻の中から現れたのは……クルミみたい。一つの実に2つ入っていて、一つはエイデン、もう一つを私の口の中に放り込む。
「……クルミだわ」
コリコリとした食感と、クルミの自然な甘さが口に広がる。
「この山では見かけなくて残念だったんでな。ちょっと北の方に行って採ってきた」
「植生が違うのかしら」
「どうかな。五月だったら、この山でも育てられるんじゃないか?」
「うーん、まぁ、クルミだったら身体にいいっていうし、確か木材にもいいって聞いたことあるけど……これも同じなのかなぁ」
私もエイデンを真似して割ってみようとしたけれど、無理! クルミ割り器でもあれば、割れるかしら。素焼きにして食べてもいいし、クルミ餅とかクルミの和え物とかもいいかもしれない。
もし大きな東屋あたりに植えたら、エイデンが勝手に採って食べるかも?
色々と考えてたら、楽しくなる。
「あ、あの」
いつの間にか集まってきていたガズゥたち。そのガズゥがオドオドしながら、エイデンと私の間で目を泳がせている。
「うん? 何、ガズゥ」
「五月様、その、ボルダの実なんですけど、あまり、目立つところに植えない方がいいかと……」
「え、なんで?」
「ボルダの実は、人族ではどうかは知りませんけど、俺たち獣人の間では、『復活の実』とも言われてまして」
……なんか名前がすでに不穏な響き。
「病にかかった時に、すりつぶして薬湯と一緒に飲むと一発で治ると言われてるんですが……滅多に実がならないとも言われているんです」
それって栄養価が高いってことではなくて? もしかして異世界仕様で、なんぞ特別なパワーがあるとか? さっき、気にせず食べちゃったけど。
目の前のエイデンは気にせず2個目を割って、食べている。
それが今、目の前の袋いっぱいに入ってるね(遠い目)。
「万が一、この木が大きく育って、実がなってるのを見つけられたら、色々と厄介なことになるのではないかなぁと」
「……俺は五月の山であれば、どこに植えててもいいけどな」
植える前提のエイデン。まぁ、普通に美味しかったから、私も植えるのはやぶさかではない。
「立ち枯れの拠点の斜面にでも植えるわ……その前に、まず苗にしないとダメだけど」
ちゃんと育つかは、土の精霊たち次第。
今のところ、私の身体に明確な症状は出ていないから……クルミ餅でも作ってみようかな、と思った私なのであった。





