第205話 エイデンのトラブル対処法
店の外に出ると、キャーキャーと叫ぶたくさんの人と、武器を構えた兵士たち(ほとんどが及び腰)が集まっていた。もうゾンビ状態は切れたってことか。
「え、え、ど、どういうこと!?」
スノーは苛立たしそうに大きな尻尾をバッタンバッタンさせている。うん、顔も恐いぞ。辛うじて歯をむき出していないだけ、まだマシか。
「お、お前は、これの飼い主かっ!」
兵士の中でも偉そうなおじさんが、顔を真っ赤にして叫んでいる。いや、剣とか振り回さないでよ。
「は、はい。そうですけど……ちょっと、危ないんですけど」
「う、うるさいっ! それはホワイトウルフか! ちゃんと、従魔の印をつけているんだろうなっ」
「は? 『じゅうまのいん』?」
「まさか、こいつ、まだ登録してないのかっ! くそっ、おい、魔術師殿はまだかっ!」
「え、え、何、どういうことよ」
『五月様、こいつら殺っちゃってもいい?』
「いやいやいや、ダメだって」
「まったく、いつの時代も、人族はうるさいな」
私の後ろから現れたエイデンが、かなりの低音で不機嫌そうに言う。
うん? また、さっきみたいなのやるつもりか!?
「エイデン! ちょっと落ち着こう?」
「落ち着かせるべきは、あいつらだろう」
そう言ったかと思ったら、腕を伸ばして指パッチンした。
「うわ~」
叫び声は治まり、周囲の人々の顔つきが落ち着いたものへと変わった。
特に、剣を振り回していた偉そうな人は、むき身の剣をぶら下げたまま、ぼーっとした状態になっている。
「エイデン……」
「うん?」
「何、満足そうな顔してるのよ。これじゃ、まともな会話できないじゃないっ」
さっきの『じゅうまのいん』とかいうのの説明聞いてないし。
「さっきの方が会話も何もなかっただろうに。だいたい、こんな奴らの言うことなど聞く必要など、あるまい?」
「いやいやいや、ここ、うちの山の最寄りの街よね? 買い出しとか来るなら、ここしかないってことよね? こんなんじゃ、来るたびに騒ぎになっちゃうよね?」
「俺がいるから大丈夫だろ?」
「そうじゃないでしょうがっ!」
長い間眠ってたせいなのか、元々、こういう生き物なのか、全然、常識がない! 私も、こっちの常識はないけど、それ以上にない気がする。
私は普通に買い出しに来たいっていうのにっ!
「何をそんなに怒っているんだ?」
「色々ここの常識とか聞きたいことが聞けないじゃないっ、ってこと!」
「うん? 何か知りたいことがあったのか?」
「だから、『じゅうまのいん』のこととか聞きたかったんじゃないのよ」
「聞けばいいじゃないか」
「は?」
「だから聞いてみろって。こいつら、聞けばちゃんと答えられるぞ?」
このゾンビ状態でも?
エイデンの言葉を訝しく思いながら、偉そうな人に『じゅうまのいん』のことを聞いてみると、淡々とした声で説明してくれた。冒険者ギルドってところで、従魔の登録をしておく必要があるらしい。それが『じゅうまのいん』なのだとか。
「……普通にしゃべってるね」
「ふん、単に興奮状態の者を落ち着かせただけだぞ?」
いや、落ち着かせただけってレベルじゃないよね?
古龍の常識よりも、この世界の常識の方が知りたいと、つくづく思った。





