第202話 街に向かう前に
軽トラは、やっと街道に入った。街道といっても、先ほどの荒野との違いは踏み固められただけ。少しだけマシになった感じだろうか。馬車も人の姿もないのは、あまり利用されるような道ではないのだろうか。
しばらく進むと、ようやく荒地から、草が増え始めた。遠くに見えていた木々もだいぶ近づいてきて、木陰で休めるくらいには増えてきた。
荒野では直射日光の上に、走り続けていた子供たち。さすがに暑かっただろうし疲れてきていてもおかしくはない。だって、すでに2時間近く、走ってたのだもの。時々、軽トラに乗って遊んではいたものの、普通の人間じゃ無理だわ。
ちょっとした森も見えてきた。そろそろ、日陰で休んでもいいかもしれない。
「ここで休憩するよ~!」
街道からはずれて、草地に乗り入れ、車から下りてみる。風がそよそよと吹いていて、だいぶ涼しいようだ。
軽トラと並走してたガズゥたちも、ごろりと草の上に寝転んでいる。さすがに息があがったのか、と思ったら、全然余裕でじゃれあってるよ! ホワイトウルフもいっしょに!
どんだけ体力あるのよ……。
「ほらほら、今、シート敷くからどいて!」
アイテムボックスからキャンプ用のビニールシートを広げると、テオとマルが我先にと寝転ぶ。
「ひんやり~」
「きもちいい~」
やっぱり、それなりに暑かったのね。
「はい、これで水分補給して」
「は~い!」
大き目のペットボトル(再利用)にスポーツドリンクを作ってきて正解。プラスチックのコップに注いだら、あっという間に飲み干してしまった。
「エイデンも飲む?」
「いただこう!」
ずっと助手席に乗ってたエイデンじゃ、あんまり美味しく感じないかもだけどね。
「……うん、うまいぞ」
エイデンでも気を使えるのか、と思った私。水分補給はしておいて間違いはないだろうからね。
ついでに持ってきておいた、おにぎりを取り出す。中身はおかかに昆布に梅干し。梅干しは私しか食べないので、おにぎりのてっぺんにちょこんとのせてある。子供たちもエイデンも食べたがらないのだ。
さてと、タブレットの『地図アプリ』で現在地の確認。目的地の街は、この林? 森? を抜けて、少しいったところにあるらしい。
この街道、隣国へとつながる街道のはずなんだけど、ここまで馬車にも歩く人にも会わなかった。けっこう朝早く出てきたので、まだ午前中のはず。それなのに、誰も通っていないって、なぜだろうか。
「まぁ、軽トラ見られたら、面倒なことが起こりそうだからいいけど」
キャサリンの実家でもある公爵家のような高貴な家ですら、馬車での移動なんだもの。たぶん、文明的にもまだ自動車とかってないんだろうなぁ。
再び『地図アプリ』に目を向ける。距離感はわからないけれど、ここからは歩いて行った方がいいかもしれない。
「そういえば、ガズゥたち、一緒に街まで行く?」
公爵のところの御者の、見下したような目つきを思い出して、つい聞いてしまった。
いまだに、この世界について理解はしきれていないものの、ガズゥたちを捕まえていた盗賊みたいなのもいるわけで、これから行く街でも何かあったりしないか、心配になる。
テオとマルは首を傾げているなか、ガズゥは少し考えてから「ここで待っててもいいですか?」と言った。
「ここで、お留守番してる?」
「はい。たぶん、その方が五月様にご迷惑がかからないかと。テオとマルが街に行って、大人しくしていられるとは思えないので」
うん。
別の意味で、ガズゥは正しいことを言った気がする。確かに、興味本位であちこち見て回りそうだし、その勢いで迷子になりそう。犬の獣人のテオとマルだから、匂いで見つけ出せそうな気もするけど、街の規模次第では、色んな匂いがして見つけられないパターンもありそうだしねぇ。
「俺はいくぞ」
「うん、当然」
私の返事に、まんざらでもない顔をしているエイデン。
文字読めそうなのはエイデンだけだからね。よろしく頼みますよ。





