第195話 獣人の村のお兄さんとの邂逅
ちびっ子3人が神妙な面持ち。テオとマル、まだ食べ終えてないのに、皿はテーブルの上。
「キャサリンたちを町まで見送った帰りに、うちの村の兄ちゃんに会ったんだ」
「は?」
ガズゥいわく。
その兄ちゃんというのは、村の中でも狩りが得意で、それを見込まれて、ガズゥたちの探索を任されたのだとか。他にも彼以外に数人がガズゥたちを探しに出ているらしい。
「え、じゃあ、村は大丈夫だったの?」
魔物が襲ってきたから逃げ出した、という話だったはずなんだけど。
「うん。父さんたちの方は時間はかかったけど、制圧できたんだって」
しかし、村の方は壊滅状態。多くの子供や老人が魔物に襲われてしまったそうだ。ただ、その中にガズゥたちとおじいさんの姿が見当たらなかったために、村の周辺を探すことになったのだそうだ。
そこでおじいさんの死体がすぐに見つかったのだが、明らかに魔物のものではない傷跡が複数あったことから、ガズゥたちが誘拐されたのではないか、となって捜索が開始されて、今回、発見にいたったらしい。
「え、じゃあ、そのお兄さんは?」
「一度、村に戻るって」
え、連れ帰らなくていいの?
誰と一緒にいるとか確認とかしなくてよかったんだろうか。
そしてできれば、一度、ご挨拶とかしておきたかったんですけど!?
「兄ちゃん一人で、俺たち3人の面倒は難しいからって」
「おれたちだけでも、だいじょうぶなのにな?」
「そうだぞ。えいでんさまに、きたえられてるからな!」
……いや、そのお兄さんの判断は正しいと思うぞ。
ここから、その村の場所がどれくらい遠いのかわかんないけど、食事のこともそうだけど、ちびっ子の面倒……特に、下2人の面倒をみるのは大変だと思うんだよね。エイデンの目がないところで、何をしでかすかわからないからなぁ。
それに、ここに戻らずにいなくなってたら、私の方が心配で探しまくるかもしれない。
とりあえず、そのお兄さん、一度、結界の近くまで来たらしい。でも私が認めないと入れないからね。逆に、自分が入れなくても、子供たちが自由に出入りできることで安心して村に戻ったらしい。
「どれくらいで迎えに来るのかしら」
キャサリンたちの時には、今あるものをお土産に渡すしかなかったけど、時間があるんだったら、色々と考えて用意してあげたい。
「どうだろうな」
「にいちゃん、あちこちさがしたっていってたし」
「でも、すげー、あしがはやいんだ!」
どれくらいでお迎えが来るのか、ちょっと予想がつかないけれど、いつでも帰れるように、色々と準備をしておいたほうがいいかもしれない。
――ガズゥたちがいなくなると、寂しくなりそうだなぁ。
ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ、そう思った私なのであった。
* * * * *
曇天の下、荒野を走る一人の狼獣人。浅黒い肌に黒い髪。鋭い目は前しか見えていない。
――ガズゥ様が生きておられた!
その事実に、口元が緩む。
魔物に襲われた獣人の村では、子供の数が激減してしまった。そんな中、テオとマルも無事だったことは、不幸中の幸い。
その上、なぜかホワイトウルフたちに守られている。彼が近寄っただけで、あっという間に囲まれてしまい、下手をうったら死んでいたかもしれない。
そして、ガズゥたちが身を寄せているという場所の不思議なこと。なぜか見えない壁に阻まれ、ガズゥたちと離されてしまった。すぐにガズゥたちは彼のところに戻ってきたけれど、誰でも入れる場所ではないのだろう。
あの場所であれば、再び、人族に攫われることもないはずだ。
――早く、ネドリ様にお伝えせねば。
村長であり、犬系獣人を取りまとめているガズゥの父親を思い浮かべると、狼獣人のスピードは一段と早くなった。





