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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
子供たちとの別れの夏

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第193話 町の情報と、サクランボ

「キャサリン、そろそろ行くぞ」


 馬車の傍で待っていた公爵の言葉で、私たちは別れの挨拶を終える。

 サリーちゃんは叔父さんといっしょに御者の席に座るようで、すでに御者台に座っている。かなりご機嫌だ。


「本当に世話になった。もし、王都に来るようであれば、ぜひ、我が家にも寄ってくれたまえ」

「そうですね……いつか、行くようなことがあれば。ああ、そうだ。ここから最寄りの町って、馬車だとどれくらいかかります?」


 地図も何もないから、最寄りの町の情報が皆無。そういう情報を持っているまともな現地人は彼らが初めて。聞けるうちに、聞いておかねば。そこそこ近いのなら、ずっと求めていた魔道コンロを買いに行こう!


「そうだな、この馬車で1日くらいだろうか。なぁ、デイビー」

「さようでございます」


 なるほど。あの馬車で1日であれば、軽トラなら半日もあればつけるかな。位置は彼らの馬車の進む方向でわかりそうだし。今から少し楽しみだ。

 馬車の窓から身を乗り出して手をふるキャサリンに、私も手をふった。隣に立つエイデンも、偉そうに片手をあげている。様になるのが少し悔しい。


「……あ、あれ? ガズゥたちは?」

「馬車を追いかけてったぞ?」

「え、ちょっと、大丈夫なの!?」


 正直、公爵以外の人達(サリーの叔父さんと護衛)は、ガズゥたちへ向ける視線や対応がイマイチだった。そんな人達の後を追いかけてくとか、トラブルが起こることしか思い浮かばないんだけど!


「ハッ、あの程度の人族相手に遅れはとるまいよ」

「いや、いやいや、戦うの前提!?」

「なーに、心配することはない。ホワイトウルフたちもいるしな」

「そうじゃなくて!」

「まぁまぁ。それよりも、畑の水やりはいいのか?」

「あ、う、うーん」


 すでに、馬車は小さな点になっている。今更追いかけられるわけでもないし、これ以上私に何ができるわけでもない。私は小さくため息をつくと、立ち枯れの敷地へと戻ることにした。


        *   *   *   *   *


 馬車の中で、公爵はキャサリンから渡されたサクランボをしげしげと見ていた。


「これ、すっごく甘くて美味しいんです」


 ニコニコと笑いながらパクリと口にするキャサリン。

 

 ――このような赤々とした小さな果実は見たことがない。


 王国内の公爵家の筆頭ともいえるエクスデーロ公爵家。各国の珍しい果物など、いくらでも手に入るが、今、彼が手にしているような果実は見たことがなかった。

 娘にならい、サクランボを口に含むと、甘さと同時に爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。


 ――なんだ、この甘さは!?


 ぽろりと口の中から種を取り出す。


「あ、その種はとっておいてくださいね」

「これか?」

「ええ! これでうちでも食べられるようにしたいのです!」

「そうか」


 娘の嬉しそうな笑みに、つられて笑う。掌の小さな種。今、植えたとしても、娘が食べられるようになるのはいつになるのか。


「このサクランボ、大きな木になるんです。私は見られなかったのですが、花の時期は、木が花で真っ白になるんですって」


 木の実となると、実がなるまで相当時間がかかりそうだ、と思った公爵ではあったが、娘を悲しませるかもしれないと、それ以上のことは言わなかった。




 しかし翌年の春。公爵家の庭園の片隅に植えられたさくらんぼの種は、キャサリンの背丈くらいに育ち、しっかり桜の花で満開になったらしい。


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