第189話 公爵の話を聞く
まさか、キャサリンのお父さん、エクスデーロ公爵本人が迎えに来るとは思いもしなかった。
公爵たちは、サリーのGPSにあたる魔石の反応をずっと探していたのだそうだ。それがまさに、私たちが彼女たちを助け出した時に、ようやく捉えることが出来たのだとか。それが彼女たちが誘拐されて1週間ほど後だったそうだ。
それがわかってすぐにでも探しに出たかったらしいのだけれど、色々とかたを付けることがあったそうで、すぐには難しかったらしい。
今、一緒に来ているのも、執事の一族(サリーの親戚)たちなのだとか。それに公爵自身が監視されている可能性もあったので、弟を身代わりにして探しに来たのだそうだ。
……残った弟さん、大丈夫なんだろうか。
ちなみに、公爵の住む王都からここまで、普通の馬車だったら1か月以上かかるらしい。どんだけ高性能な馬車に乗ってきたんだろうか。
そして今、私たちはいつも肉を焼いている東屋にいる。大きめに作っておいておいてよかった。冷えた麦茶を透明なプラスチック製のコップにいれて、目の前に座る公爵の前に置いた。プラスチック製が珍しいのか、しげしげと見ていたが、すぐにこちらに目を向けた。
「娘たちを助けてもらったそうで、感謝する」
公爵の隣には目を真っ赤にしたキャサリンが、ずっとぐすぐすしながら座っている。
そしてサリーは、公爵たちの背後で、なんと御者の中年男性の足にしがみついている。どうも、その男性はサリーの叔父に当たるらしい。
「いえ、うちのホワイトウルフたちが気付いたおかげなので……」
「……貴女はテイマーなのか?」
「えーと?」
「テイマーとは、動物などを操る職業のことをいうんだ。五月にはビャクヤたち従魔がいるのだから、テイマーといえるんじゃないか」
エイデンがこっそり教えてくれたので、私はなんとか笑みを浮かべるだけにする。職業と言えるほどのものでもないと思うんだけど。
「素晴らしい。あのような高レベルの魔物を従えるとは」
「あ、あはは」
そうなの? そうなのか?
「お父様、本当に五月様にはお世話になったのです。私たち……もう死ぬんじゃないかと思っておりました。そんな中、ホワイトウルフたちとともに、五月様が現れて助けてくださいましたの」
「なんと……」
キャサリンの言葉に真っ青になった公爵は、隣に座っていたキャサリンを再び抱きしめる。サリーも叔父さんに抱き寄せられている。
「……この子は、私の父、この子の祖父の元へ行く途中に襲われたらしいのだ。普段は、魔物も盗賊も出ない、整備された道のはずだったのだが……」
「私たちは馬車の中にいたのでわかりません」
どうも慣れた道だったので、護衛の数が少なかったところを狙われたらしい。
「なんで、キャサリンちゃんが……あ、キャサリン様が?」
おっと。「ちゃん」付けて呼んだら、背後の御者の人に睨まれた。
うん、めんどくさそうだな。
「この子は、王太子殿下の婚約者でな……それで狙われたのかもしれない」
恐っ! 恐っ!
何それっ。やっぱり、こっちって物騒だね。





