第185話 東屋とお肉と、無粋な奴ら
エイデンたちが狩ってきたのは、この前のものよりも一回り小さいフォレストボア。他にも大きめな鳥らしいのも狩ってきたようで、解体済みのお肉を、嬉しそうに持ってきた。
こっちとしては、肉の塊状態になっている分には助かる。さすがに、目の前で解体されるのは、厳しいもの。
そして皆の期待に沿って、ローズマリーと一緒にフォレストボアを焼く。鳥の方は、タイムを採っておいたので、そっちでお料理だ。
料理の場所は、この前と同じ東屋。LEDのライトを東屋の軒の四隅に下げると、それなりに明るい。
そして、いつの間にか、エイデンが、東屋の周辺を綺麗に整地した上に、周囲に綺麗な石積みの塀まで作ってくれてしまった。その上、立ち枯れの結界の場所から、ここまでちゃんと道まで整備してくれていた。歩きやすいこと、歩きやすいこと。
最初は私の敷地じゃないけどいいのかなぁ、と思ったけれど、この山に住んで半年以上経つが、まともな人には出会っていないし、と考えるのを放棄した。
「おお! いい匂いだ!」
嬉しそうに肉に食らいついているエイデン。ナイフで切らずに、一気にかぶりついている。ローズマリーは大丈夫だったようだ。
この前、エイデンがくれたソースも悪くはないが、こっちのハーブと一緒に焼いたのもいい! 子供たちも嬉しそうに食べている。
「ちゃんと野菜も食べなね」
「うんっ!」
ログハウスの畑では、今はキュウリやピーマン、トマトにナスも植えている。
子供たちがいるので、毎回、あちらに買い出しには行けないので、できる野菜はこっちで育てるようにしたのだ。一応、土の精霊に成長ペースを落としてもらっていても、普通のものよりも早いし、大きい。一人だったら食べきれなかったけれど、子供たちがいるので助かっている。
美味しそうに食べている子供たちの顔を見る。皆、最初に出会った時のような、暗い顔もないし、しっかり肉もついてきた。女の子組は薄っすら日焼けもしているが、こっちの貴族の女の子としては、まずいかな。日焼け止めや化粧水とかをつけてあげたほうがいいかしら。せっかくだから、ハーブで化粧水を作ってみてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら子供たちを見ていると、急に肉を食べていたガズゥの手が止まった。
「……無粋なやつらがいるようだな」
エイデンがボソリと低い声でそう言うと、獣人の子供たちは、手にした食器をテーブルに戻した。
え、何。まさか、魔物とかが近くにでもいるの?
エイデンだけではなく、この辺りはホワイトウルフたちの縄張りになっているから、よっぽどの魔物でないかぎり、いないとビャクヤには教えてもらっていたのだけれど。
「お前ら、忘れてないな」
「はいっ」
……何を子供らに教えたのよ。
あまりにも物騒な雰囲気になったエイデンと子供たちに、私と女の子組は唖然となる。
「よし、五月たちは絶対にここから出るな」
「え」
「ホワイトウルフども、聞こえているな」
いくつものグルルルッという唸り声が聞こえてきた。ちょっと、なんか機嫌が悪そうよ。
「行くぞ」
言葉と同時に、東屋から駆け出していくエイデンと子供たち。その傍にはホワイトウルフたちが駆け寄っていく。
「……何が起きてるんだろう」
私たちは、彼らが去っていった暗闇の方を見送るしかなかった。





