第184話 古龍はめげない
さすがに、へこたれて近寄ってこないかな、と思ったのに、次の日には、再び、獣人の子供たち相手に、訓練を始めたエイデン。子供たちは楽しそうだし、彼らの為になることのようだから、まぁ、いいか、と遠くから見守ることにする。
しかし、女の子組はやはりエイデンのそばには近寄らない。人の姿をしていても古龍だし、大柄な大人の男の姿というのは、誘拐された彼女たちには怖さを感じるのかもしれない。
立ち枯れの場所でハーブ類に水やりをしてると、時々視線を感じる。いや、明らかに、私を見ているよな、エイデン。チラチラどころではなく。
そういえば、こんな風に誰かに視線を向けられるようなことって、あっただろうか。
学生時代は片想いが多かったし、社会人になってからできた彼氏……まぁ、元カレのことだけど……でも、こんな風に見られたことはなかったかも。
「いかん、いかん、何考えてんのよ」
相手はストーカーだぞ、と変な情がわきそうなのを振り払う。
ちなみにノワールは、うちとエイデンのお城を往復している。何やら、仲をとりもちたいようなのだが、子供のくせに、生意気である。
「五月様、このラベンダー、どうしますの?」
「ありがとう!」
立ち枯れの拠点の柵の中に植えたラベンダーが花盛りを迎えたので、女の子組に刈り取るのを任せたのだ。まだまだ子供の彼女たちでは、まだそれほどの量を採れないものの、腕いっぱいに抱えて、満面の笑みのキャサリンたちがやってきた。うん、絵になるな。
「あー、スマホ持ってきて撮ればよかった!」
最近はこっちにいると目覚まし時計にしか使わなくなってしまったスマホ。今もログハウスに置きっぱなしだ。
「それじゃ、長屋の中で束にして、軒先に下げようか」
「のきさきにさげる?」
「うん、これを乾燥させて、ドライフラワーにしようかなって」
「どらいふらわー?」
「もしかして、こっちでは花を乾燥させたりしないの?」
「えーと、薬草類を調薬するのに、乾燥させると聞いたことがあります。ね? サリー」
「はい! おばあさまが、くすしなので、そのおてつだいをしたことがあります!」
「へぇー!」
くすし……薬師かな。基本、花は生花のまま、ただ見て楽しむ、ってことなのかな。単に彼女たちが知らないだけかもしれないけど。
「これが終わったら、ローズマリーも少し採ろうかな」
鉢植えのものと、『ヒロゲルクン』で整地したもののローズマリーの2種類があったけれど、整地したほうのローズマリーが、成長速度が早い。もりもりになってて、早めに刈ってあげないと、中の方が枯れてしまいそう。
「そうだ。これ使って、お肉焼くかな」
「ローズマリーって、食べられるのですか?」
「そうね。お肉と一緒にしたり、じゃがいもとかにもいい風味付けになるわね。あー、そういえばパンなんかにも練りこんでるのを見たことがあるわ」
今度、パンを作るのもいいかも? フライパンでもパンが焼けるって、何かで見たし。
「さ、五月!」
キャサリンたちとそんな話をしていると、エイデンが声をかけてきた。
「何?」
「あ、あの、肉がいるなら……また狩ってこようか?」
うん。この人のいう「カッテコヨウカ」は「買ってくる」わけじゃないんだよね。
しかし、この世界の動物? 魔物? が美味しいのは、この前ので経験済みで。ちょっと思い出して、喉をならしそうになる。
「五月様! 俺たちも何か狩ってくるよ」
「おー」
「おー」
行きたくて仕方がない獣人の子供たち。尻尾がぶんぶん振られている。
「……子供たちのこと、ちゃんと任せていいのよね」
「ああ! 当然だ! ノワールも行く!」
本人、今、ここにいないけど、勝手に決められてるし。
「じゃあ、夕飯はお肉、期待してるから」
「任せろ!」
大喜びのエイデンと子供たちの様子に、大きくため息をつく。
けして、肉に負けたわけではない。うん。負けてはいない……はずだ。





