第182話 古龍の昔話を聞く
皆でフォレストボアの焼肉をした場所は、すでに雑草が生えてきていたが、そこに少し大きめの東屋を建てた。床がしっかり固められているのは、古龍の魔法によるものらしい。
そこに木の長椅子が2つ、間に低めの木のテーブルを挟んで置いてある。こちらも古龍の手によるものだ。なかなか、いいセンスをしている。
まだグズグズいっている古龍ではあったが、私が椅子に座ると、素直に向かい側に座った。せっかくなので、『収納』してあった麦茶の入った大きめの水筒を取り出した。ここ最近、子供たちも一緒に動いているので、水分補給にと用意していたものだ。
透明のプラスチックのカップに麦茶を注いで渡すと、古龍が無言で口にした。ちょっと冷たかったのか、びっくりしたようだったけれど、それには言及せずに、ポツリポツリと話し始めた。
――聖女は、俺の最愛だった。
……え。いきなり、重い。
何、『最愛』って。
稲荷さん曰く、『親友』って聞いてたんだけど。
よくよく聞いてみると、どうも古龍の片想いだったらしい。
その聖女には婚約者がいたのだそうだ。それも、国の王太子。相思相愛って感じだったらか、身を引いてたんだって。この古龍が。
元々、聖女と古龍は幼馴染のような関係だったそうだ。といっても、ドラゴンと人という関係なので、聖女はまったく気付かなかったらしい。
それが、聖女が国中を浄化の行脚をしている最中に、浮気しちゃったんだって。その王太子が。それで浮気が本気になってしまい、聖女と別れるために彼女に冤罪をかけた上に、殺してしまったそうだ。
元々、聖女っていうのも身分がそれほど高い人じゃなかったそうだ。後ろ盾は王太子だけで、その後ろ盾の王太子が裏切っちゃったんだから、彼女を救う人は誰もいなくって……最後には聖女は殺されてしまったんだとか。まだ、17歳の少女だったそうだ。
「何の恋愛小説よ」
思わず、呆れた声が出る。
普通に別れればいいじゃない?
そんな殺す必要なんかないんじゃ、と思ったのだけれど、なんでも王妃教育とかいうので王家の秘密をすでに知ってしまっていたので、殺されたんじゃないか、というのが、今になって冷静に考えた古龍。
聖女は最後の最後まで、その王太子のことを信じていたらしい。彼が誰かに騙されてるって。
「……それだけ、信じて、愛してたのだ。俺の言葉も耳に入らないくらい」
古龍が悔し気に言っている姿に、ちょっとだけ気の毒に感じる。
しかし、その聖女っていうのも、思い込みが激しいというか。いや、10代で恋愛経験が少ないと、そうなるのか?
というか、私、前世でも、男に浮気されてるのか、と思うと、なんだかなぁ、と思う。
男運がないんだろうか。
結局、古龍が助け出そうとした時に、彼女の死んでいる姿を見てキレてしまったそうだ。
いや、キレるのはわかるけど……国を滅ぼしちゃうのは、いかんだろ。





