第180話 古龍、ノワール、正座させられる
再び、人の姿で正座させられている古龍。そして、その隣にシュンとなっているノワール。
あの場所に小さな子供がいたことと、爆風による土埃でせっかくの洗濯物が汚れたこと、思いっきり文句を言ってやった。
運よく、子供たちは怪我はしていなかったけれど、直撃してたらと思ったら、背筋がゾッとする。それに、あの大量の洗濯を、もう一度しなきゃいけないのか、と思ったら、ムカつくこと! ムカつくこと!
「わ、悪かった」
『ごめんなさい』
「ほんと、勘弁してほしいわ! ……まったく、何をどうすれば、あんな凄い爆風が起きるのよ」
『うんと、俺が古龍様に突撃したのを、古龍様が尻尾で防いだら、地面に打ち付けられてた』
「……は?」
『でも、すぐに俺、古龍様に反撃したんだよ。凄くない? 凄くない?』
何がどう凄いのか、まったくわからない。
あの土煙は、ノワールが地面に激突してできた煙だっていうの? なにそれ? アニメのドラゴンなんとかの世界じゃないんだからさ。
でも、彼的には凄いのだろう。目をキラキラさせて褒めてほしがっているようだ。
「……はぁ。うん、ノワールは少し黙って?」
『え』
「古龍、このちびっ子相手に何してんのよ」
「え、いや、あの、だな」
「あの、じゃないです」
「いや、ドラゴンの訓練ではっ」
「うん、それが普通なのだと」
「そ、そうだ。ドラゴンであれば、この程度、なんともない」
「でも、その訓練の近くの地面にいたのは、獣人の子供たちでしたよね?」
「あ」
「あ、じゃないでしょ、あ、じゃぁ」
今絶対、私の背後に真っ黒なオーラが浮かんでてもおかしくはないだろう。
「それに、洗濯物も台無しにしやがって……」
「あ、ごめんなさい」
「……訓練をするなとは言わない。でも、場所を考えろよ、場所をぉぉぉっ!」
「ひぃっ! ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ!」
見事な土下座の古龍に、隣のノワールも真似をして土下座っぽくしてる。ちょっと足が短いせいか、変だけど。
「さ、五月様」
ふんぬと鼻息荒く見下ろしている私の背後から、ガズゥの怯えた声で名前が呼ばれた。
「何、どこか調子悪くなった?」
慌てて振り向くと、なんと獣人の子供たちも土下座している。
「な、何? なんで」
「お、俺たちも悪かったんだ!」
「え?」
「古龍様に、少し離れてろって言われてたのに、古龍様とノワールが戦ってるとこ見たくって」
「……かっこよかった」
「おれも、とびたい」
ガズゥは真面目に反省してるっぽいのに、ちびっ子二人はまったくそんな気はない模様。
「だから、叱るなら俺たちも同罪だと……思う……んだ」
「……ほぉ。なるほど。ガズゥたちも叱られたいのね」
「う、うん」
私はぐるりと正座をしている面々を見下ろし、しばし考えて、心を決めた。
「……そんなに訓練したいなら」
私がちびっ子たちに命じたのは、次の通り。
・フタコブラクダの山の周りを10周、両方の山頂の往復を10回
・山裾から徐々に草むしり(日が暮れるまで)
これを1週間。
ノワールと古龍には、私への接触を1週間禁止と、山周辺での訓練も禁止した。
やるなら、私たちへ被害のないところでやってくれ。
古龍が絶望したような顔をしたが、関係ないのだ。
……でも、接触がないだけで、ヤツのことだから、何らかの能力で、聞かれてたり、見られてたりしそう。
――対古龍の防犯グッズみたいなのってないのだろうか。
真剣に稲荷さんに相談しようか、と思った。
ちなみに、汚れた洗濯物は古龍の魔法で綺麗にしてもらった。そんな便利な魔法があったのかよっ! と、呆然となったのは言うまでもない。
……もう、古龍を洗濯係にしてもいいかもね?





