第176話 古龍の新たな棲み処
私は山頂にあるビャクヤたちの巣で、ビャクヤのところのちびっ子たちを遊ばせながら、向かいの山を眺めている。
「まさか、本当に居つくとはねぇ」
向かいの山の頂きに、今まではなかった立派なお屋敷……いや、お城が出来上がっているのだ。なんと古龍が、一晩で作っちゃったんだとか。
まぁ、私も材料さえあれば、タブレットでちゃちゃっと作ってしまうけど。
なんか石造りのが出来てるのを見ると、なんかモヤッとする。木造が悪いわけではない。悪いわけではないし、むしろ好きなんだけど……なんか悔しい。
稲荷さんに思いっきり怒られた古龍。それでも、どうしてもここに居させてくれと、縋りつかれそうになった。速攻で稲荷さんが蹴倒したけど。
さすがに、こんな大柄で(立ち上がったら、めっちゃデカかった。2mくらいありそう)迫力のある人がいたら、子供たちが恐がってしまう。実際、彼らはずっと長屋から出てこなかったし、ホワイトウルフたちもどこかに隠れてしまった。
もしかして、ちょっと前のノワール同様、魔力が駄々洩れなんじゃ、と思ったのだけれど、稲荷さんにそれはないと教えてもらった。古龍レベルの魔力になると、周辺の環境すらも変えてしまうのだそうだ。駄々洩れだったら、この辺り一帯、草木も生えないような状況になってるんだって。怖すぎるっ!
そんな、いつ化学兵器みたいになるかわからない古龍を、結界の中には入れたくなかったので、断固拒否。
かなりのイケメンではあったけれど(ちょっといいな、と思ったのは内緒だ)、それはそれ、これはこれなのだ。
そしたら、せめて近くに住まわせてくれ、と言ったかと思ったら、向かいの山にお城を建ててしまった。
そもそも、うちの敷地じゃなければ、ご勝手に? としか言えない。目の前の山が誰の土地とか、関係ないのかな、と思って稲荷さんに聞いたけれど、この世界で古龍に文句をいえるような者などいない、と言われてしまった。
私、言ってますけど、と言ったら、「望月様は例外です」とニッコリスルーされてしまった。
『五月~、フォレストボアの肉、食わないか』
なぜか頭の中に、古龍の声が聞こえてくる。
周囲を見渡しても、彼の姿が見えることはない。これも、彼が近くにいるようになってから聞こえるようになった。結界は物理的に古龍を入れなくさせることはできても、彼のテレパシーみたいなのは防げないらしい。これが攻撃的な力のあるものだったら違ったらしいけれど、こんな暢気な会話は遮断しないのだとか。
だからといって、私の方が同じようなことができるわけではない。
「じゃあ、立ち枯れの入口に行きますよ」
『ああ、待っている』
私は声に出して言ってるのだけれど、古龍にはこれが聞こえるのだとか。
もしかして、毎回、盗聴でもしてるのか!? と一瞬焦ったけれど、そこは我慢しているらしい。それをしたら怒られるというのは理解しているようだ。
でも、それはやろうと思えば、この距離でも盗聴できるってことよね! と思ったら、顔が引きつったのは、言うまでもない。





