第168話 ガズゥたちの現実
キャサリンたちは朝食の後は二度寝をしたらしい。かなり疲れていたのだ、それも当然かもしれない。お昼過ぎに起きだした頃、ガズゥたちが山の方からさくらんぼをたくさん採ってきたのを分けて食べたのだとか。かなり気に入ったのか、嬉しそうに話してくれた。
先ほどの焚き火は、なんとサリーが火種を作ったらしい。彼女は、魔法で小さな火を出すことができるのだとか。こちらではそれを『生活魔法』と言って、そういう魔法が使える人は、貴族の家で重宝されるらしい。目の前で、ポッと指先から火が出たのにはびっくりだ。
「お待たせしました」
稲荷さんが、ガズゥたちを連れてやってきた。
「やはり、彼らは隣国の獣人の村の子供たちだったようですね」
「その村はここからは」
「そうですねぇ。キャサリン嬢たちの住まいが王都だとしたら、同じくらいの距離でしょうか」
「それって、けっこう遠いんですか」
「遠いねぇ……それに、ガズゥたちの村は魔物の襲撃にあったらしくて」
「魔物の襲撃……?」
「ええ。彼らを守ってくれていた老人が魔物に襲われていた時に、人攫いに捕まってしまったそうです」
なんてこった。
私は言葉が出なかった。私自身、生きている魔物といえば、ホワイトウルフしか見たことがない。ビャクヤたちが時々持ってきてくれる魔物は、すでに死んでるし、襲われたこともないから、危機感を感じたことがなかった。ホワイトウルフだって、身体は大きくても、モフモフで可愛いし。
「たぶん、戻っても彼らの村が残っているか……」
「そんな」
ガズゥたちへと目を向ける。私たちの会話がわからないのか、キョトンとした顔をしている。
「ガズゥ、あなたたち、村に戻りたい?」
「……戻れるなら」
「そっか」
「しかし、今の彼らじゃ、また別の人攫いに捕まる可能性のほうが高いですよ」
この国は獣人を奴隷にするって言ってたもんなぁ。
「これも、古龍が来たら相談してみてもいい案件ですかね」
「そうですねぇ……望月様がお願いすれば、聞いてくれる可能性はあるかと(むしろ、邪魔者をさっさと消したいくらいかもなぁ)」
稲荷さんが疲れたような顔をしたような気がして、もう、けっこう遅い時間なことに気付く。
「すみません! たいした食事もお出ししてませんでしたね!」
「いえいえ、お腹いっぱいにして帰ったら、妻に怒られますから」
何気に、稲荷さんの家は、かかあ天下なのかもしれない。
稲荷さんは帰る前に、荷物の中にあった子供たちの服に気付いたのか、私にこっそり教えてくれた。尻尾を出す穴がないってことを。それを聞いて、頽れた私。
「一応、穴をつけときました。ついでに、うちの奥さんにでも、子供服、用意してもらっときますよ」
さらっと言って、軽トラのある道の方へと去って言った。
――うん? 「穴、つけときました」?
慌てて、男の子用の服をチェックして、尻尾専用の穴がついてるのを確認。そうか! 彼ら、尻尾があったのを忘れてた!
「……やっぱり、稲荷さんって、あんなんでもやっぱり神様だったのね」
思わず零れてしまった言葉が、稲荷さんに届いていませんように、と、ちょっと思った(しっかり聞かれて、ずっこけてたのは五月は知らない)。





