第166話 今更、山の周辺の国のことを聞く
子供たちが食べている間に、稲荷さんと話をする。
私もちょっと小腹がすいたので、買ってきていたアンパンを取り出す。稲荷さんに差し出したら、受け取ってくれた。
「あのキャサリン嬢は、やはり公爵家のご令嬢なのは間違いないですねぇ」
「それって、私の認識じゃ、お貴族様なんですけど」
「ええ、その通りです……望月さん、もう地図のアプリ、使えるようになりました?」
そう言われて、慌ててタブレットを手にして見るけれど、まだ何のメッセージも来てないので、KPが必要量までいっていないのだろう。ていうか、地図アプリだけじゃなく、翻訳アプリと『収納』のアップデートにも使いたいのに、KPが全然溜まらない!
「……まだです」
「なるほどー。じゃあ、仕方ない」
稲荷さんが落ちていた枝を手に、地面に絵を描きだした。
大きな丸の真ん中に三角が一つ。そのまっすぐ上にも三角が一つ。
「上の三角が古龍様がいらっしゃる北の山だと思ってください。そしてこの真ん中の三角が今私たちがいるこの山。実際にはもっと山がありますので、あくまで目安です。そして」
この丸が中央の三角を中心に、ほぼ均等に3つに分けられた。まるで円グラフだ。
「一応、大雑把にですが、この世界には3つの大国があります。小さい国もあるにはありますが、それも今は省きます。で、まずキャサリン嬢のお国は、こっち」
西側の国を指さす。
「こちらの国ですね。ここからだと、このまままっすぐ進んだ方向です」
稲荷さんが柵と柵の間の、真っ暗になって広がっている荒れた土地の方を指さした。
「そして、たぶん、ガズゥくんたちの村があったのは、このキャサリン嬢の国と、その隣国との国境あたりでしょう」
「うん? ガズゥはキャサリンとは国が違うの?」
「ええ。獣人が多く住む国は、彼女の国の隣の方です(残念ながら獣人を捕まえて奴隷として扱うことが多いのも彼女の国なんですがね)」
「なんで彼らが一緒に捕まっていたのかしら」
「さぁ、そこまでは私にもわかりません。キャサリン嬢は公爵家のご令嬢ですから、きっと今頃、家の者たちが探していることでしょう」
「だったら、早く返してあげないと」
「うーん、そうなんですけど……望月さん、彼女たちのこと送っていきます?」
「え、そりゃぁ、送れるのでしたら送ってあげてもいいと思いますけど」
「たぶん、下手すると、誘拐犯とかで捕まるかもですよ? あるいは、理由も聞かずに殺されちゃうかも」
「えええっ」
そ、そんな物騒な国なのっ!?
「ここは、古龍様が来られるまで、ちょっと待った方がいいかもですねぇ」
「なんで?」
「古龍様でしたら、普通の人間が殺そうとしてきても死なないでしょうから(むしろ、国ごと消し飛ばしそうですけどね)」
「……殺されそうになるの前提なのね」
「最悪のパターンを考えておくべきですよ」
正直、そうであっては欲しくないと思う私なのであった。





