第164話 稲荷さんと子供たちとの遭遇
異世界に戻って、ログハウスの敷地を抜け、立ち枯れの拠点への分かれ道まで軽自動車で向かう。さすがに、ログハウスの敷地から稲荷さんを歩かせるわけにもいかないし、この時間に歩いていく気力は私にもない。稲荷さんも軽トラでいっしょに来ていたので、私の後をついてきてくれている。
分かれ道に到着して、その場に車を止める。買い出ししてきた荷物を『収納』に入れかえる。
「ここからは、歩いて下りていきます」
「なるほど……ずいぶんと頑張りましたねぇ」
軽トラから下りてきた稲荷さんが、周囲を見回しながらそう言った。そういえば、稲荷さんはこっちのほうまで見に来たことはなかったか。
確かに、車が通れる幅の道とか、桜並木が出来上がっているのを見れば、そう思うかも。
「でも、ここから先は、まだ灯りとかないんですよね」
軽自動車のライトは点いてるけど、この周辺にはまだガーデンライトを刺していないから、真っ暗だ。
「まぁ、それはおいおいということで、とりあえず、灯りですね」
稲荷さんの掌から、ほわんっと光の玉が浮かんだ。
「え」
「さて、ここから下りていけばいいんですかね」
「あ、はい」
いや、うん。わかってた。
私も、光の精霊にお願いしてできたんだし、稲荷さんだったらできて当たり前なんだと思う。しかし、こうもあっさりと目の前でそういう現象が起きるとさ、なんかこう……。ううーんっ!
「望月さん?」
「あ、はいはい」
慌てて車のエンジンを止めて、道を下りていく。
早いところ、ここにもガーデンライトを刺さなきゃな、と思いながら足元を気を付けながら歩いていくと、拠点の小屋の裏手に出た。
「あれ……何かが燃えた匂い……」
慌てて小屋の入口へと向かうと、なんと子供たちが揃って焚き火に当たっていた。
どうやって火をつけたんだろう? と疑問に思っていると。
「あ、さつきさん、おかえりなさいっ」
ガズゥが立ち上がり、私の方へと歩いてきた。他の子供たちも、なぜか立ち上がってる。
しかし、私の後ろにいる稲荷さんに気付いたのか、ガズゥは足を止めた。
「あ、驚いたよね。えと、こちらは私がお世話になっている稲荷さん」
「どうも、こんばんは……おや、君はフェンリルの血をひいてますね」
「えっ」
「は?」
稲荷さんの言葉に固まる私。フェンリルって、ビャクヤたちの先祖って言ってなかった? それが、ガズゥにも流れてる? え? どういうこと?
「その辺の話はまた後にしましょう……それよりも、もう、こんな時間です。お腹を空かせているんじゃないですか?」
そうだった!
私は慌てて『収納』から、今日の戦利品をどんどんと出し始めるのであった。





