<獣人の子供たち>
ガズゥたちが攫われたのは、村人総出で魔物退治をしていた日だった。力のある大人たちが不在の中、討ち漏らした魔物たちによって村が襲撃されてしまったのだ。
そんな中、ガズゥとテオとマル、3人だけが、ガズゥの祖父と一緒に森の中を逃げていた。しかし、祖父のペースについていけていたのはガズゥだけで、テオとマルは遅れだしてしまう。そんな2人を、祖父が抱えようとした時、予想外の方向から攻撃を受けた。
……それも魔物ではなく、人族によって。
祖父は、なんとかガズゥたちを逃がそうとしてくれたのに、結局、祖父は無残にも殺され、子供たちも逃げきれずに捕まってしまう。
ガズゥたち3人は、身ぐるみを剝がされ、奴隷が着る服を着させられた。
ガズゥが父から渡されていた指輪もだ。それは、ガズゥたち一族の後継者の印が付けられていた大事なものであった。それを取られないように暴れたガズゥだったが、思い切り殴られて気を失うはめになり、その隙に盗られてしまった。
ガズゥが目を覚ました時、テオとマルが彼にひっつきながら、めそめそと泣いていた。
ガズゥはフェンリルの血を引くと言われる狼獣人の跡取り息子だ。だからこそ、ガズゥの庇護下にあるテオとマルを守らねば、とは思うものの、悔しいことに、多くの人族の大人たちを相手にできるほどの力はないことはわかっていた。
捕らえられてから数日移動したのち、馬車から降ろされた。ガズゥたちはまともな食事も与えられなかったせいで朦朧としていた。それでも、ここがどこかの山の中の、たぶん、盗賊か何かの根城だろうということはわかった。
ふと視線を感じ、目を向けるガズゥ。そこには巨大なフェンリル(実際はホワイトウルフのビャクヤ)の姿が見えた。こんなに近くにいるというのに、人族どもはまったく気付いていない。
フェンリルと目があった気がしたガズゥだったが、まったく気力のなくなっていた彼は、いいように人族に引っ張られて転がされ、蹴られ、ずるずると引きずられていくしかなかった。
鼻が曲がるような悪臭の中、押し込められた牢の中には先客がいた。
ガズゥたち同様にぼろをまとった、人族の女の子たち。彼女たちもどこからか攫われてきたのだろう。ガズゥたち以上に消耗していたが、ガズゥたちに彼女たちを思いやれる余裕などなく、3人だけで身を寄せ合っていた。
与えられるのは、水とかびたパンだけ。それでも、ないよりはマシだと、口にしていた時に、それは起こった。
男たちの怒声とともに、助けを求める喚き声……そして、狼たちの遠吠えや唸り声。血の臭いが悪臭に混じって漂ってくる。
ガズゥたち3人は身体を寄せ合いながら、外の騒動が落ち着くのを待った。
しばらくすると、ホワイトウルフたち数匹が洞窟の中に入ってきたが、ガズゥたちの方を確認だけしてそのまま出て行ってしまった。
あの様子だと、人族の男たちは皆、ホワイトウルフたちにやられてしまったに違いない、とガズゥは思った。そうなったら、自分たちはこのまま牢の中に閉じ込められたまま、飢え死にするしかない。
――はらをへらしてしぬなんて、かっこわるいなぁ。
そんなことをぼーっと考えていたガズゥだったが、しばらくして再び、人族が現れた。その人族は、あの臭い男どもとは違い、花のようないい匂いをさせていて、その上、フェンリルを従えてすらいた。
フェンリルによって思い切りドアが壊されて呆然としていると、最初、聞いたこともない言葉で話しかけられた。当然、何を言っているのかはわからない。
人族が慌てて、どこかから何かを取り出して、再び話しかけてきた。
「よし、さてと、私の言葉、わかる?」
ガズゥは、人族からの優しい問いかけに、身体がピクリと震えた。
――もしかして、おれたちはたすかるのかな
彼らに、ほんの少しの希望が見えた瞬間だった。





