第156話 ノワールに嫌がられる(臭くて)
いつまでも、ここにいても仕方ない。
私は気持ちを切り替えて、子供たちとともに、立ち枯れの拠点に向かうことにする。
「さぁ! ガズゥ、テオ、マル、キャサリン、サリー、どうぞ、入っていいわよ」
そう声をかけてから、一緒に敷地の中に入ってみる。
「……は、はいれた」
ガズゥは、すんなり足を踏み入れられたことに、感動している模様。もしかして、一度、挑戦してみたのかもしれない。
「おお~」
「……はいれた」
ビャクヤたちホワイトウルフたちも、ゆっくりと後をついてくる。
まだ、梅の木は植えてそれほど経っていないから、まだまだ小さな苗の状態。浄化はどれくらい進んでいるんだろうか。早く大きくなって、木陰を作れるくらいになってくれればいいのだけれど。
「さて、とりあえず、今日はこの小屋で休んでくれるかな」
荷物置きになっている小屋だけれど、子供たちくらいだったらなんとかなるだろう。子供たちは大人しく小屋の中へと入っていく。床がコンクリートだから、ちょっと冷えるかもしれない。ログハウスに戻って、ビニールシートとか、毛布なんかも持ってきた方がいいかもしれない。
それよりも。
「この臭いは、いい加減、限界だわ」
このまま小屋に寝られたら、絶対、小屋の中に臭いがこもるっ!
私はログハウスの敷地まで、ビャクヤに乗せてもらって一度戻ることにする。
他の諸々の道具とともに、風呂小屋をとりに行くために!
ログハウスの敷地に辿り着いたものの、ビャクヤは中にまで入れない模様。もしや、と思ったら、玄関先でノワールが不貞腐れながら待っていた。ずっと子供たちの面倒を見ていたせいで、ご機嫌ななめなのかも知れない。そのせいで、きっと魔力が駄々漏れなのだろう。
「凄いね、ノワール! 一人で帰ってこれるなんて!」
『……遅いよ』
「うん、ごめんね。ご飯も食べたいよね。ちょっと待ってね」
『いいよ。あの子供らの方を先に面倒みてあげなよ』
拗ねながらも、子供たちのことを気にかけてあげてるとか!
「え、なに、ノワールってば、いきなり大人になっちゃった!?」
『ぼ、ぼくは、古龍様の眷属だからね、それくらい心が広いんだ(待っている間に、ブルーベリーの実を食べまくってたのは内緒にしなくちゃ)』
「そっか、そっか! 偉い! 偉いね!」
思い切り抱きしめようとしたんだけど、『五月、臭いぞっ!?』と、嫌がられてしまった。その言葉に、結構傷ついた私。いや、確かに臭いんだけど。
この臭いをさせたまま部屋に入るのは嫌だったけれど、子供たちを待たせていることを考えると、そんなことも言ってられない。
「子供服なんか、うちにないし……バスタオルとか、ちょっと足りないんじゃ……それよりも食べ物とかも……この時間から作るのは無理だから……」
とりあえず、目に入った物すべてを『収納』して、最後に風呂小屋もしまう。
「ノワール、眠かったら、寝てていいからね!」
『……わかった』
返事をすると、大人しく家の中に入っていくノワール。
『やっぱ、臭い……』
「うん? なんか言った?」
『なんでもなーい。おやすみー』
ノワールの声を確認した私は、大急ぎでビャクヤの元へと走るのだった。





