第153話 さっさと戻りますよ
子供を5人。彼らをここから連れ出す方法に頭を悩ます。
一応、馬車っぽいのはあるんだけど、それをひく馬がいない。いたとしても、その馬車を使う自信はない。
すでに日は傾き、星が見え始めている。時間はない。
「ビャクヤ、彼らを乗せてもいいかしら」
「お、おれたちは、じぶんのあしではしれる!(フェンリルさまにのるなんて、ばちあたりなことはできないっ!)」
「はしれるっ!」
「れるっ!」
獣人の男の子たちは、大きな声でそう言った。
「大丈夫なの? さっきまで、フラフラだったのに」
「さっきのたべもののおかげ」
「……えぇぇ?」
たった一粒しかあげてないんだけど。
「なんか、ちからがわく」
「そ、そんなに!?」
コクコク頷く3人に、うーん、と考え込む。
『五月様、獣人は普通の人族とは違って、頑丈です。だから、洞窟の中で生き残れていたのでしょう』
確かに、女の子たちの方が、けっこうヤバい状況っぽかった。今も、もう一度立ち上がれるかといったら、無理そうな気がする。
「わかったわ。念のため、もう一粒ずつ食べて」
そう言って渡すと、男の子たちの尻尾がパタパタと揺れだした。分かりやすっ。
戻ったら、お粥でも食べさせたほうがいいんだろうか。でも、男の子たちはけっこう元気になってるし。ログハウスに戻ったら、何かないか探さないとだな。
「じゃあ、お嬢ちゃんたち、私と一緒にビャクヤに乗ろうか」
ぴくッと身体を震わせて、私に目を向ける少女たち。獣人の子たちよりもかなり小柄な感じ。私の言葉は通じてはいるんだろうけれど、まだ一言もしゃべれてない。
彼女たちにも一粒ずつ渡す。さっきは自力で口にすることも出来なかったのだから、ほんとブルーベリー最強だわ。他の果物の類でも同じなのか、一度、試してみたいところだ。
「しかし、さすがにビャクヤにしがみつけとは言えないかぁ」
この子たちじゃ、ビャクヤの毛を掴んだところで、ちょっとした動きで、すっぽ抜けそうだ。
私は少し考えてから、『収納』から麻紐を取り出した。ストック用にしまい込んでいたやつ。何もしないよりはマシだろう。
「ちょっとごめんね」
先に小さい子の方を背負って、麻紐で括りつける。そしてもう一人の女の子は、ビャクヤに乗せて、その後ろに私も乗ると、麻紐で腰のあたりで二人の身体を縛り付けた。
二人とも大人しくしてくれて助かった。もう泣く気力もないのかもしれないけど。
「これでなんとかなるかなぁ……ビャクヤ、あんまり飛ばさないでよ」
『わかりました』
「ユキは先行して、立ち枯れのところに彼らを連れてってくれる?」
『いいわよ!』
「じゃあ、ガズゥたちは、あのホワイトウルフたちの後をついて行ってね」
「わかった」
さっさとこんな血生臭い場所からは離れてしまいたい。
さすがに3人を乗せてじゃ重いかな、と思ったのだけれど、ビャクヤは全然余裕の模様。山の斜面でも、激しく上下に動かないように進むとか、どんなジェントルマンだよ。
「……あの……」
前に座っている女の子が前を向いたまま、小さな声で私を呼んだ。
「なぁに?」
「ありがとう」
「……うん」
私たちは、しばらく無言で山の中を進んでいった。





