第151話 奴隷、ダメ、ぜったい
最初、『れいぞくのもん』という言葉が理解できなかった。
『この子供らは……恐らく奴隷として連れてこられた者たちでしょう』
「どれい……どれ……奴隷っ!?」
もしや『れいぞく』は『隷属』のこと!?
それに気が付いて、最初に湧き上がったのは単純に怒りだった。
「ビャクヤ、『れいぞくのもん』の『もん』って何?」
『紋様のことですね。恐らく、身体のどこかに、紋が彫られているかと』
「彫られているってことは、入れ墨ってことか……えーと、あなた、名前は?」
牢から出られなくて、呆然としている子に声をかける。でも、声が届いていないようで、返事がない。もう一度、大きな声で「名前は?」と聞いて、ようやく「ガズゥ」と答えた。
「よし、ガズゥ、あなた、身体のどこかに入れ墨みたいなの、描かれた記憶ある?」
「いれずみ」
駄目だ。ガズゥの目には力がない。
「しょうがないな……あのね、ガズゥ、身体に触れてもいい?」
「……」
「見えるところにあるかどうかだけ、探させてくれる?」
コクリと頷いてくれたので、私はガズゥの腕と足を見てみるけれど、見つからない。
私はガズゥの首元を見てから、汚れでベタベタになって伸びきった髪を掴み、うなじを見てみた。
「あっ、これのことかな?」
ガズゥのうなじに、黒子の大きくなってしまったモノが出来ていた。大きさでいえば2cmくらいだろうか。これは入れ墨というにも、お粗末な気がするんだけれど。
『どれ……ああ、そうだ、これですね。こいつから、呪いと似た嫌な感じが伝わってきます』
「もしかして、『隷属の紋』って、呪いと同じだったりする?」
だったら、ブルーベリーでなんとかならないか、って思うから!
『似たようなものでしょう。この程度の低い紋であれば、先ほどの果物で大丈夫だと思います。ユキの番の呪いの方が、よっぽども危険でしたから』
番を傷つけた武器は、傷を付けた相手を最後には呪殺するような力が付与されてたんだと。怖すぎるっ!
それに比べると、どうも子供たちに紋を付けたヤツは、ビャクヤ曰く、下手っぴらしい。
『ただ、この紋を解いたら、紋を付けた相手にバレてしまいます』
「そうなると、どうなるの」
『この子らを奪い返しにくるかもしれません』
やだ、ヤバすぎるじゃない。
かといって、この子たちを、このまま放置できるほど、人間捨ててない。
「その紋を付けた奴って、すぐに来ちゃうかな」
「……どれいしょうにんとのやくそくが、もうすぐだって言ってた」
ガズウが、小さな声で答えた。
「えっ」
「わたしたち、みんな、さらわれてきた……それで、まとめて、ここでどれいしょうにんにわたされるって……」
土牢にいる子供たちに目を向ける。
こんな小さい子を、それも誘拐して奴隷にするなんて。
「さいってーっ!」
私はそう怒鳴ると、すぐにストックバックを取り出して、ブルーベリーを一粒、ガズゥにあげた。
「洗ってなくてごめんね。食べてみて」
私の真剣な声に、ガズゥの目が大粒のブルーベリーに向けられる。そして力のなかった目には、涙が浮かび上がり、ブルーベリーを受け取ると、小さく一口噛んだ。
じゅわっと果汁が溢れるのを、慌ててぺろぺろと舐めて、残りを一気に飲み込んだ。
「……おいしい」
「そっか、よかった」
そう答えて、私はもう一度、うなじを確認する。
「やだ、ブルーベリー最強」
ガズゥのうなじには、もう『隷属の紋』はなくなっていた。





