第150話 囚われていた子供たち
正直、洞窟の中は酷かった。特に臭いが。
入ろうとして洞窟の入口についた途端に、目が染みるような刺激臭。これはあれだ。公園とかにあるボロくて汚い公衆トイレなんかに、稀にある、アレだ。絶対、鼻で息をしちゃ駄目なヤツ!
入ってしばらくは、何やら木箱やら壺みたいのが、あちこちにゴロゴロしていたけれど、一番奥までいくと……古い時代劇なんかで見る土牢みたいなのがあって。
「ヒッ!?」
地面剥き出しの床に小さな子供たちが、壁際に体育座りで固まっている。灯りを差し出して中を見ると、怖がっているのか、身体を震わせているようだ。皆、汚れた貫頭衣のようなものを着ていて、剥き出しの肌も浅黒い。
「びっくりした……中に何人いるのかしら」
『まともに動けそうなのが2、3人か……あとは奥で横になっていますね。たぶん、食事や水をまともに与えられていないんでしょう』
「酷い。ビャクヤ、このドア、壊せる?」
『当然です』
ビャクヤの返事とともに、彼の前足一発で、格子が見事に破壊された。
「さ、さすがね」
『これくらい問題ありません』
「さてと……立てる子は早く外に出て?」
ゆっくりと中に入って声をかけたのだけれど、子供たちはズルズルと奥の方へ逃げていく。
「あ、こ、こわくないよ~。さっさと、外に出よう? 外に出たら、食べ物上げるから」
そう言っても、余計に逃げていく。
「そんなに怖いかなぁ……あ、ビャクヤいるから?」
こんな大柄なホワイトウルフがいたら、そりゃぁ、怖いか。
『いや、単に言葉が通じてないだけかと』
「……あ」
そういえば、あの怖い男の言葉がわからなかったのを思い出し、慌ててタブレットの『収納』に入れていたイヤーカフを取り出して耳につける。
「よし、さてと、私の言葉、わかる?」
奥に倒れている子たちを守るかのように逃げ込んでしまった子供たちの中から、一人だけ、ピクリと反応した。子供たちの中で、一番身体が大きい子。
「え?」
……頭になんか生えている?
あれは、獣の耳か? 犬の耳?
コスプレ? こっちにもコスプレイヤーがいるの?
思わず、その耳を凝視していると、その獣の耳をつけた子が一人だけ、前に出てきた。身体は大きいけど、見るからに痩せ細り、くぼんだ目がやけに大きく見える。その瞳の色は、見たことがないような金色の目だ。
「あなたは、フェンリルさまのあるじ?」
おどおどしながらも、可愛らしい声。女の子だろうか。
ビャクヤにフェンリルの血が入っているのに、気が付くとは。この子、何者だろう?
「え、えーと、この子は私の従魔よ」
「フェンリルさまをじゅうま……すごい」
「うん、あなたは歩けそう? 歩けるなら、ここから出てくれる?」
「……出ていいの?」
「当然よっ! こんなところ、ずっといちゃ駄目!」
思わず大きな声になってしまったものだから、獣の耳がへにゃりと伏せた。
「あ、ご、ごめんね。とにかく、出て」
しかし、獣の耳を持った子は、そこから出られなかった。
出ようとしたのに、土牢から外へ足を出すことができないのだ。まるで、そこに見えない壁があるかのように。
「どういうこと?」
私もビャクヤも問題なく出入りができるのに、その子はできないのだ。
『こやつ……もしや、隷属の紋でも彫られてるのでは』
その様子を見ていたビャクヤが、不機嫌そうにぼそりと呟いた。





