第146話 焦るビャクヤ、びびる五月
敷地で待っていたビャクヤは、少しばかり薄汚れているように見える。
ノワールも一緒にいるのに、それどころではない、という感じで話し始めた。
『申し訳ございません』
「何、どうしたの?」
『ユキの番が、傷を負いまして』
「うん? 番?」
『はい、昨夜、狩りの最中に獲物から反撃を受けまして、その際に受けた傷が』
「え、え、どういうこと?」
私と話しているうちに落ち着いてきたのか、ビャクヤの話の内容がようやく見えてきた。
どうも、その獲物の持っていた武器に、毒らしきものがついていたらしく、かすり傷だと思っていたものが、今頃になって悪化してきたらしい。
武器を持っているような獲物って何? って思ったけど、ここは異世界って言ってたし、もしかして、某ファンタジー映画とかに出てきてた、豚みたいなキモい顔の生き物とか、そういうのかしら。
それに、あのお子様だったユキに番って、どういうこと?
いや、でも、動物は大人になるのは早いっていうし、アリなのか? なんて考えてみても仕方がない。
とにかく、その傷を見てほしいというのだ。
「いや、私、獣医でもないんだけど……とりあえず、救急箱持って行くか」
ログハウスの中に入って、小さな箱を取り出す。ほんとに自分用にっていう頭痛薬や風邪薬のような内服薬と、切り傷が出来た時にいつも使っている塗り薬。それと消毒液、絆創膏や包帯くらいしかない。そもそも、人に効くものが動物に効くのか? あ、動物ではなくて、魔物なのか?
それに、念のため、大きめのタオルとか、トイレットペーパーを2、3個を合わせて『収納』する。
『五月様! あと、池の水もお願いします』
「池の水?」
『はいっ、精霊の力を含んだ水です。もしや、毒に効くのではないかと』
そんな都合のいい話があるのかは、微妙だとは思ったけど、ビャクヤの頼みだしね。
私は折りたたみのバケツにいっぱいの水を入れて『収納』にしまう。逆に、バケツ一杯で足りるのかな、とも思ったけれど、他に使えるものもないので諦めた。
『それでは、そのままお連れしますので、私の背に』
「は、はいよっと」
『いきます!』
ビャクヤの背中に乗ったと同時に、掛け声とともに、一瞬でビャクヤは飛んだ。
――そう、飛んだのだ。
眼下にはログハウスの屋根。
「ヒッ!?」
ギュッとビャクヤの毛を掴む。いきなりすぎて叫び声も出ない。
そのまま、物凄い勢いで山の斜面を駆けあがっていく。私はビャクヤの背中にしがみつく。
『びゃくや~、さつきをふりおとすなよぉ』
『はっ!? も、申し訳ございませんっ』
ノワールの声で、ビャクヤも私の今の状況に気付いたようで、少しだけスピードが急に落ちた。
「は、ははは、いや、あせってるのは、わかるよ……」
『さつき、だいじょうぶ~?』
なんと、ノワールが同じようなスピードで脇を飛んでる!?
「だ、大丈夫だけど、ノ、ノワールの方こそ」
『ぼくは、だいじょうぶ~』
ノワールののんびりした言葉とは裏腹に、ビャクヤはどんどん進んでいく。
先ほどのトップスピードほどではないにしても、かなりのスピードで斜面を駆け上がったかと思ったら、今度は駆け下りる。チラリと立ち枯れの拠点の辺りが見えたかと思ったけど、それも一瞬。
隣の山の中へと、ビャクヤは駆けのぼっていく。
……私は初めて、よそさまの山の中へと入っていったのだった。
無断で入っても大丈夫なのかなぁ?





