<ビャクヤ>(2)
ビャクヤたちは密やかな足音とともに、山の斜面を駆けていく。
「……かよ」
しばらく進んだところで、人間の男たちの声が聞こえてきた。
「だから、すげー立派な板塀だったんだよ」
「あの山ぁ、人は住めないって話だったじゃん?」
「だよなぁ、お前の見間違いじゃねぇのかよ」
「そう言いながら、お前らも、来てんじゃねぇか」
「そりゃぁ、一応、確認しないとなぁ」
ガハハハッ、と笑いあう男たちの手には、物騒な武器が手に握られている。
「それに、こぎれぇなガキがいたんだろ?」
「ああ、そうだ! 見たことのない服を着ていたが、ありゃぁ、金持ちのガキに違いねぇ!」
「そんなんがいるならぁ、いい金になりそうじゃねえか」
男たちが勝手に盛り上がっていく様子に、ビャクヤはグルルルルッと怒りの唸り声をあげる。
「うん? なんか音がしたか?」
「そうかぁ? おめぇの笑い声で聞こえなかったぞ?」
「気のせいじゃねぇか? この辺は魔物がいないって聞いたぞ」
この山周辺のホワイトウルフたちが上手く狩りをしているだけで、魔物がいないわけではない。それを人間の男たちが知らないだけだ。
「見えたぞ」
「おお、確かに立派な板塀だな」
「おい、気を付けろよっ」
「がっ!?」
男が声をかけた直後、先に歩いていた男たちが何もないところにぶつかった。
「ってぇ……なんだよ!」
「見えない何かがあるみたいなんだよ」
どんどんと叩いてみるが、透明な結界によって彼らはそれ以上中には入れない。
「くそっ!」
「この前もそうだったんだよ。とりあえず、どこかからは入れるかもしれねぇから、この見えない壁にそって行くしかねえだろ」
男が冷静に言ったことで、他の男たちも素直にいうことを聞いた。
男たちは、立ち枯れの拠点の方へと足を向けようとした。
『……今だ』
ビャクヤの声で、一気にホワイトウルフたちが男たちへと襲い掛かった。
「な、なんだっ!?」
「やべぇ、ホワイトウルフだっ」
「なんで、こんなところにっ」
「逃げろっ……ぎゃぁぁぁぁっ」
* * * * *
「うん?」
『さつき、どうした?』
「いや、なんか声が聞こえた気がしたんだけど」
『とりのなきごえじゃないの?』
「え、あんな、ひび割れたような鳴き声の鳥がいるの?」
『しらな~い』
草刈りをしながらガーデンフェンスを立てていた五月。あと少しでトンネルへ向かう道の近くまでやってきていた。
ノワールには、ビャクヤたちが人間たちを襲っているのがわかっていた。人間の叫び声とともに、血の臭いがしたからだ。
『ハクゥ』
『なんだ、ノワール』
二匹は念話で会話をする。
『ちのにおいがきついから、ビャクヤにきれいにしとけっていっておいて』
『……わかった』
『あのだみごえ、さいてーだな。もうすこしはやくにしゃおんしてなかったら、さつきにばれてるぞ』
『きをつけるようにいっとく』
『よろしくぅ』
ハクは自分たちよりノワールの方が力があるのを知っている。
あんなに小さくても、あの魔力の濃さから、五月の前では力を隠しているのだ。あれが古龍の眷属なのだ。本体である古龍が来たら、どうなることか。
『さつきも、厄介なのに好かれてるよなぁ』
心の中でそう思いながらも、五月の護衛を続けるハクなのであった。





