第139話 土砂降りの雨の中、稲荷さん登場
昨夜から降り始めた雨が、朝には、びっくりするくらいの土砂降りだった。
――帰ってきてすぐに門扉を作り、ソーラーパネルを片づけておいて正解だったわ。
それぐらい、かなり酷い降り方だ。
さすがに、この天気の中、山の中を歩き回る気にはならない。一応、昨夜のうちに、ログハウスの出入り口の門扉は作ったので、不審な奴らは入ってこないだろう。
窓から外を見ながら、万が一の防犯グッズを準備しておかないとまずいかもしれない、と思った。結界があるとはいえ、万全ではない。過剰なくらいがちょうどいいんじゃないか、と思ったのだ。
朝食の後片付けを終えて、今日は何をしようかな、とノワールを抱えながら考えていると、外から車のクラクションが鳴った。
「え、クラクション?」
『ん? いなりのおっさんだな』
「稲荷さん?」
その口のきき方はどうなの? と思ったけれど、それよりもこの雨の中に来た稲荷さんを出迎えねば。
長靴を履いて傘をさして、門のところまでかけていく。びしゃびしゃと水が跳ねてジーンズが塗れてしまうが、仕方がない。
木製の門扉が雨で少し重くなってるけれど、なんとか開く。
「おはようございます~。凄い雨ですね~」
軽トラの窓を開けて、稲荷さんがそう声をかけてくる。雨音が大きいので、それに負けないようにと、大きな声だ。
「どうしたんですか、こんな朝早くに」
「ほら、中古車業者を紹介するって言ったじゃないですか。それでちょうどいい車が入ってきたと連絡があったんで、お迎えに来てみたんですが……まさか、こんな土砂降りとはね」
「わー、ご苦労様です。あー、でも、予算が……」
「まぁ、お金のことは抜きにして、一度、見てもらったらと思いましてね。よければ、このまま、この車で行きません?」
「なるほど、じゃあ、すぐに荷物だけ取ってきます!」
ちょうどいい。このタイミングで稲荷さんが来てくれたのなら、ちょっと色々相談させてもらおう。ついでに、ホームセンターで防犯グッズを見てきてもいいし。
どたばたと準備をして、玄関に向かう。
『でかけるのか?』
「うん、ちょっとお買い物に行ってくる」
山の中であれば、それほどでもないのに、私が『買い物』というと、あちらの世界に行くというのと、帰りが遅いというのがわかってるのか、ノワールの寂しそうな様子に、毎回、私の方も申し訳なくなる。
でも今日は、いつもよりも我慢しているようで、素直に『……いってらっしゃい』という言葉が出た。
「何かお土産買ってくるね。それと……誰か来ても、家から出ちゃだめよ」
『ビャクヤたちは?』
「もし来るようなことがあったら、出かけたって言っておいて……窓越しでも会話できる?」
『ああ。だいじょうぶ。ぼくも、あいつらもさつきのじゅうまだからな』
「……? まぁ、通じるならいいか。よろしくね」
『まかせろ!』
最後には自信満々に応える姿が、なんともかわいくて、思わずギュッと抱きしめる。
「そいじゃあね」
『おう!』
私は再び土砂降りの中を傘をさして、稲荷さんの軽トラへと向かった。





