第138話 山全体を囲っちゃおう!(2)
けっこう立派な木製の門扉を建てた。道幅サイズの開き戸だ。ちゃんと中側に簡単な板で止めるタイプの鍵もついている。ちょっと開けるのに手間はかかるが、滅多に使わないなら、これでいいだろう。
そして、そのままガーデンフェンスを建て続ける。
「あ……ここはどうすべき?」
湧き水のところから流れていると思われる小川にぶつかってしまったのだ。
川幅は2mもないくらいだろうか。さほど深さもないから、小川の中も歩けてしまう。そもそも、ここにガーデンフェンスを建てても、増水とかしたら、流されたりしないだろうか。
「えー、なんかちょうどよさそうなのってないのかしら……」
慌てて『タテルクン』のメニューを探し出す。
何度も使っているうちに、勝手に内容がバージョンアップされてて、けっこう種類も増えている。自動でダウンロードでもしてるのだろうか。
「あ、ガーデンフェンスの大きいサイズのがあった」
これなら、小川の中に入れても、隙間から水は流れていくし、高さも今まで作ってきたのよりも少し高いうえに、地面に刺す部分も、もう少し長くて、深く刺せそう。
ついでに、私が歩けるようなサイズの小さな橋も作っておく。
「となると、排水口でできた小川も同じようにしないと駄目か」
でも、一度やってしまえば、サイズは違えど、同じことを繰り返すだけだ。
空が赤くなり始めるころ、ようやっと排水口の小川までやってきた。
「よし、これで一旦終わりにしようか」
ここからだったら、明日、ログハウスの敷地から来るのも楽そうだし。
『さつき、そろそろ戻ろう』
『かみなりの音が聞こえる』
「えっ」
草刈り機を止めて、耳をすますけれど、私には聞こえない。でも、ハクたちが言うなら、そうなのだろう。元々、早めに上がる予定だったし、戻ったら戻ったで、ログハウスの敷地の門も作らないと駄目だろう。
「よし、じゃ、ここから戻るかな」
『そうした方がいいわ』
『おれは、ちょっと見回りしてくる』
「気を付けるのよ」
『大丈夫っ』
勢いよく駆け出していくハクを見送ると、私たちはログハウスへと戻るのだった。
* * * * *
ビャクヤは山を2つ越えたところの山の斜面で、とある集落を見下ろしていた。
昨日、ハクたちが追い払った男の匂いをたどって辿り着いた場所だった。
『……こんなところに、物騒な奴らが居ったとはな』
昨日の男の姿は見えないが、男たちが大きな声をあげながら、何やら騒いでいる。時折、風に乗って酒の匂いがしているので、酔っぱらった者も多いのだろう。
しかし、多くの者が、手元の武器の手入れや、荷馬車から荷物を下ろしている。
『あれは……獣人か?』
粗末な格好をした小さな子供たちが、荷馬車から引きずり降ろされている。皆が皆、力なく倒れこみ、男たちに鎖を捕まれ、引きずられていく。
『なんと……最低な奴らだ……』
その中の一人の獣人の子供と、視線があった。
きっと綺麗だったらふさふさとした尻尾だったろうモノは、汚れて力なくだらりと伸びている。ビャクヤと目を合わせても、その瞳は昏くなんの感情も浮かんでいない。その子供は山の斜面に作られた洞窟の中へ引きずられるように消えていった。





