第137話 山全体を囲っちゃおう!(1)
次の日は朝早くから、山の周辺をガーデンフェンスで囲うことにした。ハクとユキが護衛だ。ノワールも行きたがったけれど、この子の方が狙われそうで危ないし、何より、私じゃ守れる自信がないし、そもそも、追いかけられたらこの子を抱えて逃げられるかも怪しい。
目の前をハクとユキ、2匹ともが胸をはって歩く姿が可愛くて、ウリウリッと頭を撫でてしまう。
ビャクヤは私たちとは別行動。私たちの山ではなく、逃げていった男の跡を調べに行っている。山頂の巣には、まだ小さい子供たちがいるので、ビャクヤたちにしてみても、この山の安全は重要事項なのだ。
「いやぁ、思った以上に広いわ」
麦わら帽子をかぶり、タオルを首に巻きながら、汗を拭う。すっかり、農家のおばちゃんみたいだ。周囲の鳥のさえずりを聞いている分には、ほんとに静かでいいところなんだけど。
一応、ビャクヤに聞いてみた。この結界って物理攻撃ってどうなのと。
そしたら、悪意のある攻撃であれば、問題なくシャットアウトしてくれるらしい。魔法も言うまでもなく。
そうそう、魔法は、やっぱり人の中にも使える人がいるらしい。まさに魔法使い? 魔術師? そういう職業があるっぽい。某映画みたいに、箒に乗って飛んだりするのか、ちょっと見てみたい気はするが、敵対するような相手だったら、そばには寄りたくはないかも。
瘴気の跡地の一番先端の梅の木から、ガーデンフェンスを建て始める。
朝早くから草刈りや伐採しながら、やっと湧き水側の道の出口まで辿り着いた頃には、とっくにお昼の時間を過ぎていた。
「はぁ。これでまだ半分くらい?」
『半分かな?』
『だねー』
キリがいいので、ここでお昼ご飯。
草刈り機をタブレットに『収納』して、代わりに折り畳みの椅子とテーブルを出す。そして、おにぎりを2つに、お茶の入った水筒を出す。おにぎりの中身は、この前、稲荷さんから頂いた梅干しだ。もう、これが最後。そういえば、梅シロップも、もういい感じで出来ていたはず。そろそろ梅を取り出して、ジャムにでもしよう。
「うまっ。水がいいのかなぁ」
土鍋で炊いたご飯が思った以上に美味い。
ハクたちにも、ベーコンの塊をおすそ分け。護衛のお駄賃だ。正直、あっちで買ってくるのは、高くつく。そのうち、魔物の肉で燻製でも作ってみたほうがいいのだろうか。燻製グッズとか、調べておかないとわからない。
空を見上げると、木々の隙間から、白い雲が流れていくのが見える。上空はだいぶ風が強いのか。もしかして。
「久々に、雨でも降るのかな」
私の言葉に、ハクたちは鼻を上に向けて、クンクンと匂いを嗅いでいる。
『……まだ、雨の匂いはしない』
『でも、今日は早めに上がった方がいいかな』
「だよね」
さっさと食事を終えて後片付けをすると、整地した道を挟んだ向かい側から、再びガーデンフェンスを建て始めようとして、気が付いた。
「もしかして、ここ、門扉を作んないと駄目?」
一応、ログハウスのところの出入り口は、門扉もなく、スルーできるようになっている。一応、結界が張ってあるから、入ってこれないとは言われたけれど……。
「ちょっと、あっちも不安だし、こっちも門扉、作っておこうか」
私は『タテルクン』の中から、良さそうな門扉はないか、と選び始めるのであった。





