第135話 安全第一
まだ、胸のドキドキが止まらない。
物騒な男をハクたちが追い返してくれたけど、もしかして、アレが盗賊とかそういう輩だったりするんだろうか。
そう思ったら、より一層、怖くなった。一応、ハクたちが言うように、果樹が植えてあるあたりは結界が張られていることになっているから、入ってはこれないかもしれないけど、万が一っていうのもあるかもしれない。
「でも、あんなボロい格好が、こっちでは普通だったらどうしよう」
そうなると、ちょっとここの文化レベルが不安になる。
いや、魔道コンロがあるって言うくらいだから、もしかしたら、大きな都市レベルだったら違うのだろうか。
なんにしても、また来られたらログハウスに戻れなくなるのは困る。
「そういや、何か武器っぽいのも持ってなかった?」
手にはしてなかったけれど、腰に何かを下げてた気がする。
『わかんない』
『よく見なかったし』
「そっか……もし銃とか弓とか持ってたら、ヤバい? あ、そもそも、銃ってあるのかな……あれ? 結界って、そういうのもはじいてくれる?」
『わかんない』
『わかんないねー』
「そ、そっかー」
もしかして、ビャクヤあたりに聞けばわかるかもしれないか。それは、後でハクたちにでも呼んできてもらおう。
そういえば、ビャクヤは魔法が使えたけど、普通の人でも使えるんだろうか。私は使えないみたいだけど……魔法で攻撃とかされたら、ヤバすぎる!
「……それよりも、裏の道だわ」
確か『ヒロゲルクン』で湧き水側の道に植樹したやつには、魔除けくらいでしかなくて、結界の機能はついていなかった。そうなると、ああいう人は簡単にやってきそう。やっぱり、敷地周辺に柵を建てるしかないのか。
「KP、ガッツリ減るよねぇ」
最近は、けっこう自然増加分が増えてきたので、そろそろアプリのダウンロードの通知が来てもいいんじゃない? と思っていたのだけれど。
「でも! 安全第一!」
それに、あんな物騒なのがいるんだったら、スーパーカブでの移動っていうのも、危険すぎるかも。今更、盗賊の存在感にズーンッと気持ちが重くなる。
「仕方ないか」
タブレットの『収納』の中に入っている手持ちの木材で、片方だけでも柵を作っていく。元々、バイク1台くらいしか通れない細い道だったので、これも少し幅を広げないと圧迫感があって、走りづらそうだ。
「ちくしょー!」
私はぶつぶつ文句を言いながら、柵をドンドンと建てていくのであった。
* * * * *
男は必死になって山の中を走っていた。
「あ、あの場所にっ、子供が住んでるなんてっ」
あの場所……『聖なる山』と言われている山には、何人も近寄ってはならない、と言われ続けていた。
「その上……ホワイトウルフを従えてやがった……」
しかし、ホワイトウルフたちが飛び出してきた柵は、かなりしっかりした作りに見えた。ということは、多くの人が住んでいるということか。
「はぁはぁはぁ……くそっ」
男は、仲間を連れて、もう一度見に行くべきだ、と強く思った。





