第134話 第一異世界人発見! ……なのだが
本来なら、『第一異世界人発見!』なんて言って盛り上がるべきところなんだろう。しかし。残念ながら、そんな気持ちにはならないほど、男の様子は怪しすぎた。
こちらに移住してきて半年以上経つけれど、山からまともに出たことはなかった。反対側の裾野の川原近くまでは行ったけど、人家の影がなかったし、きっと最寄りには村も町もなさそうだと思ってたのだ。
男は山の斜面を降りて、こっちに向かってくる。なんか、すごい機嫌が悪そうなんだけど。
「※△! ◇●×$#〇%$*〇※!(おい、お前、なんでこんなところにいるっ)」
それに、何言ってるか、さっぱりわからない。
もう、怖いんですけどっ!
私は慌てて男に背を向け、拠点に向かって走り出す。
「※△! 〇%$!(おい、待てっ!)」
なんとなく、待て、と言われている気がするが、待つわけがなかろうがっ!
腰のカウベルがガランガランと盛大に鳴っているけど、そんなのを気にする余裕はない。
男に追いつかれる前に、スーパーカブに乗って、エンジンをかけようとしたところで、背後に目を向ける。
「あ、あれ?」
あの体格だったら、下手したら捕まるかも、と覚悟してたんだけど、男の姿がない。
「どこ行った?」
私は柵の中から外へと目を向けると、男の姿は見えない。どういうことだ?
『さつき、どうした?』
『なんか、すごい音がしたから、見に来たよ』
いつの間にか、私の背後にハクとユキが来ていた。彼らの姿を見て、ホッとする。
「はぁ……ハクたちか。なんか、小汚い男に追いかけられそうになったんだけどさ……それが今はいなくて」
『うん?』
『ねぇ、アレじゃない?』
ユキの言葉に、目を向けたのは、うちの反対側の山の斜面。小汚い男が走ってきている。
「なんで、あんな走りづらそうなとこを」
『結界張ってるから、入れないんじゃない?』
「え? 結界?」
『うん。さつきが植えた木、結界張ってるよ?』
「あっ」
そういえば浄化の機能ばかり考えてて、結界もついてたのを忘れてた。
「……そうか。ちょうど両サイドに果樹を植えてるから、囲われてるってことなのかな?」
『そうそう。さつきが許さない限り、誰も入ってこれないよ』
「精霊は?」
『……張ってても増えてるの知ってるじゃん』
「そうでした」
男はガンガンと何もないところを殴っているけど、入ってはこれない模様。でも、立ち枯れの拠点の裏口から先には、結界を張れるような果樹は植えてない。
「スーパーカブなら、逃げ切れるかな」
『さつき、僕らに任せろ』
『そうよ。私たちも強くなったんだから!』
「え、ちょっと、危ないよっ」
私が止めるのも聞かず、吠えながら飛び出すハクたち。
それに気付いた男は、慌てて山の中の方へと逃げていく。
「ハク! ユキ! いいわ! 放っておいて!」
私の叫ぶ声に、ハクたちは途中で戻ってきた。
「ありがとうね! 助かったわ!」
『フフフ、僕たちだったら、あんなの追い払うのなんて簡単さ』
『そうよ! ……でも、この辺りに人が来るなんて変ね』
「……そうなの?」
『うん、人の集落は、この山を3つくらい越えたところにしかなかったわ』
『そういえばそうだったな』
「なんで、ハクたちはそんなの知ってるの?」
『父さんと一緒に、獲物を獲りにいった時に教えてもらった!』
自信満々に答えるハクの姿に、先ほどまで緊張した状況だったのも忘れて、思わず笑ってしまった。
 





