第12話 異世界でソロキャンプ(1)
しばらく呆然としていた私は、鳥のピチチッという鳴き声で我に返った。
慌てて簡易トイレにかけよる。いわゆる工事現場とかで見るアレだ。山の中にあることの違和感は半端ないが、ないことの方が切実だ。
すぐにトイレを使いたいわけではないが、チェックだけはしておきたい。
「……トイレットペーパーはある」
簡易トイレ自体が真新しいのか、トイレのいやな臭いもしない。
「あと、あれは風呂なの?」
トイレから少し離れたところにある小屋に向かう。
窓から中を覗こうと思ったらすりガラスになっているのか、中は見えなかった。ドアを開けて中を見ると、檜のいい匂い。まさかの檜のお風呂だ。身体を洗う場所もそこそこある。こっちは石が貼ってあるようだ。残念ながら、着替える場所が……ない。
「え、でも、お湯は?」
探してみると、二つの蛇口がある。赤い石がのったものと、青い石がのったもの。たぶん、お湯と水がそれぞれに出るのかも。念のため、それぞれの蛇口をひねってみると、案の定、お湯と水が出た。
「……水道どうなってるの」
いや、ここ、山の中って言ってたし。
排水とか、大丈夫なのかな。もしかして、溜め込むタイプ? いや、でも一週間分の汚水とかって、すごい量になるんじゃ。え、もしかして。
「異世界って、魔法とかそういうの使えるの? そういや、『まそ』って言ってなかった? 『まそ』って、まさか『魔素』……なわけないよね、うん」
顔を引きつらせつつ、私を無理やり納得させる。
レンタカーへと戻って、中の荷物に目を向ける。
「えと、荷物を下ろす前に……薪買ってくるの忘れた」
人の姿のお稲荷様の勢いに負けて、すぐに移動してきてしまったのだ。一週間分の薪を買うとなると、めちゃくちゃお金がかかる。キャンプの代金を半額にしてもらったけれど、薪代で同じくらいになってしまうんじゃ。
「さすがに、ここの木とか、切っちゃまずいよね」
周りを見渡す。太い木々の間に、細めの若木もちらほら見える。さすがに鉈までは持ってきていないし、お稲荷様が『野生動物は、キャンプされている間は、この開けた場所には入らない』って言ってたけど、私が切り開いちゃった場合、どうなるの?
「全然、確認したりないじゃない」
そもそも、本当に戻れるの?
このままこの異世界に残されるんじゃ。そんな不安が湧き上がる。
「……薪を買いに行くついでに、確認してきてもいいわよね」
トイレと風呂の建物へと目を向ける。草っぱらにポツンと立っている風景は、やっぱり違和感。もしかして、戻ってこられたとして、これらが残っているかどうか怪しいけど、それよりもちゃんと戻れるかの確認の方が大事。
「よし」
私は車から荷物を下ろさずに、再び車に乗り込んだ。





