第128話 古龍が来る!?
久しぶりに、あちら側に戻る。
まだ異世界の方は、そこまで暑くはなってはいないものの、やっぱり、冷蔵庫が欲しい。その冷蔵庫を常時動かすことを考えると、今のポータブル電源だけじゃ、パワーが足らない。一応、電源の口は2つあるけど、洗濯機と同時に使ったらアウトだと思う。ちょっとお金がかかっても、もうワンランク上のものを買っておいた方がいいはずだ。
それと脚立。風の精霊が果物の実を取ってくれるというけれど、小屋やログハウスの屋根の上とか、メンテナンスが必要になった時にあったほうがいいかな、と思ったのだ。
食料品や雑貨も合わせると、他にも色々と買うものがいっぱいだ。
ノワールも行きたがったけれど、こっちのモノは持っていけないと稲荷さんにも言われている。万が一、持って行って、トンネルの中で消えちゃったら、なんて思ったら、怖くて連れていけない。
幼いノワールが理解できるかわからなかったけれど、私は、なんとか説得を試みた。
『わかった』
「わ、わかってくれた?」
『むぅ。こりゅうさまが、がまんするっていうから、のわーるもがまんする』
「うん?」
なんか、私の耳がおかしくなったか?
「今、古龍様って言った」
『いった。もうちょっとしたら、来られるから、のわーるもがまんする』
「……古龍が来る?」
うん? まさか? ドラゴンが?
『さつき、はやくいって、はやくかえってきて』
「あ、いや、そのぉ、古龍はいつ来るのかな?」
いきなり来られても、困る。
いや、そもそも、どれくらいの大きさなんだ!?
ドラゴンのイメージなんて、某怪獣映画なんだけどっ!
『うーん、わかんないっ』
首を傾げるノワールは可愛いけど、言ってる内容は、全然可愛くないっ!
「せ、せめて、今日とかには来ないわよね? 」
『うん、まだきたのおやまにいる』
「北のお山……北の山って、どこよ。あー、もう、こういう時に地図のアプリが欲しいっ!」
『すっごい、とおくだよ』
「そうなのね、すっごく、遠くなのねっ」
それがどれだけ『すっごく』なのかは、わからないけど、今日の今日、ってことはないはずだ。
「とりあえず、稲荷さんに相談しておこう。大きさも聞いておかないと……って、そうか、ノワールは古龍と連絡とってるんだから……ノワール」
『なぁに、さつき』
「あのね、古龍にね、いきなりは来るな、って伝えておいて」
『うん?』
「こっちもね、その、出迎える準備っていうものがあるしね」
『うん』
「そもそも、そのぉ、古龍の大きさがわかんないし、この家の中……いや、敷地に入りきる大きさなのか、わかんないじゃない?」
『うん、のわーるもわかんない』
「だよねー」
ここで生まれたんだから、大きさなんかわからんだろう。
そもそも、ノワール自体がすでに、そこそこ大きいのだ。長く生きている古龍がどれだけ大きくなっているか……ちょっと、昔の特撮映画の怪獣が空に浮かんでいるイメージを想像して、ゾッとなる。
それに、そんな大きなモノが飛んで来たら、周囲の住人たちがこぞってやってきそうで怖すぎる。
「と、とにかく、いきなり来られるのは困るのと、大きい身体だとうちじゃ受け入れられないって、伝えておいて」
『うん?』
「じゃ、買い物、行ってくるわ!」
ノワールの反応から、ちゃんと伝わるかは微妙だけれど、言うだけは言った。
「真面目に稲荷さんに相談しなきゃ」
渋い顔になりながら、私は軽自動車を車庫から出すと、さっそくトンネルのある道へと向かうのだった。
* * * * *
「五月……ひどい」
思い切り凹む古龍。
ノワールを通して、五月の姿を見て喜び、五月の言葉にデレデレと顔を緩める。稲荷が見たら、呆れたであろう姿。
古龍が情けないほどに一喜一憂する姿は、誰も知らない。





