第120話 チビドラゴンとスーパーカブ
チビドラゴンが生まれて、ログハウスの中はかなり賑やかになった。
ムチムチの身体のせいなのか、羽が小さいせいなのか、まだ空を飛ぶことができないらしく、何かというと抱っこを要求される。重さとしては、普通に人の赤ん坊くらいじゃなかろうか。けっこう重い。
これを抱えて山仕事はできないので、帆布を使ってリュックを作ってみた。自力で飛べるようになるまでの一時しのぎなんで、我慢してもらう。文句もいわずに、いそいそと自ら入るんだから、気に入ってはいるんだろう。
ちなみに、チビドラゴンの魔力がかなり強いらしく、ビャクヤたちは早々に山頂の巣に戻っていった。おチビたちと戯れる暇もなく、行ってしまったので、すごく寂しい。
名前については、保留中。下手に名前を付けたら、この子も従魔とかになったりしそうだし。稲荷さん待ちだ。
そして、稲荷さんが軽トラで中古のスーパーカブを持ってきてくれた。
「おお~、なんか、ずいぶんいいヤツじゃないですか」
昔のラーメン屋が配達とかで使ってそうなのではなく、車体は黄色に白。なんか、ラブリー。これも傷つけるのがもったいない気がするんだけど、せっかく用意してもらったのだから、仕方がない。
「ほら、前に言ってた常連さんがね。元は姪っ子さんが乗ってたらしいんだが、車買ったらしくて乗らなくなったそうでね」
「え、でも、まだ新しくないですか?」
「駐車代がかかるらしくてね」
そういうものか。まぁ、この敷地であれば、お金はかからないし、ありがたく頂くことにする。代金は毎月の入金から差し引くとのこと。今、手元にあまり現金はないので助かる。
「それにしても、このチビ助は、ずいぶんと魔力が濃いなぁ」
しかめっ面で私の背中にいるチビドラゴンの顔を覗き込んでいる稲荷さん。
「そうなんですよ、おかげでビャクヤたちが山頂に行っちゃって」
「ああ、そういえば、赤ん坊が生まれたってね」
「そうです! そうです! もうもこもこで太い足とか、可愛いんですけど、このチビドラゴンのせいで」
「ぴぎゃあ!」
「ちょっと、うるさいっ、ああ、もう、暴れないでよ」
私が文句を言ったら、チビドラゴンが背中で暴れだす。チビとはいえドラゴン、力が強くて、こっちも必死になってしまう。
「こらこら、あんまり望月様を困らせると……(お前の主に怒られるぞ)」
「ぴぎゃっ!?」
稲荷さんが何かを言ったようで、急にチビドラゴンが大人しくなった。
「はぁ。もう、こんなんだから、毎日、疲れちゃって」
「あははは」
「そういえば、これに名前とかつけてもいいんですか? その……古龍から預かってたってだけですし……下手に名前を付けて問題になりません?」
「うん? 構わないと思いますけどねぇ(むしろ、つけてやったら喜ぶというか)」
「従魔になったりしません?」
「このチビ助が望めば、なっちゃいますよ(絶対、なるだろ)」
「えぇぇぇぇ」
「なぜ、嫌がる」
稲荷さんは笑うけど、なんか、ドラゴンとか面倒見るのが大変そうなんだもの。一応、今は赤ちゃんだろう、という考えだけで牛乳をあげてはいるけれど……1リットルのパックがあっという間になくなるのは、どうなのよ。
とりあえず『クロ』『ブラック』『ネロ』『ノワール』と呼んでみたら、『ノワール』に反応して……
従魔になったのは、言うまでもない。





