第119話 生まれてきたのは
立ち枯れの拠点(正式名称は、まだ考え中)を『整地』した翌日、ホームセンターに行って、いろんなハーブの苗を買ってきた。
前にちょろっと考えていたハーブ専用の場所を作ることにしたのだ。
まだ『整地』をしていない凸凹のままになっている跡地に、繫殖力の強いというハーブ(ミント、オレガノ、タイム、レモンバーム、ローズマリー等)を1株ずつ、間隔を置いて植えてみた。
正直、これらがどれだけ瘴気にやられた土地で根付くかわからない。土の精霊の力も未知数だけれど、これで少しでも緑が増えてくれたらいいな、と思う。
これらのハーブは料理にも使えそうだし、ある程度、増えてくれるなら、ドライハーブにでもしたいところだ。
一方で拠点の敷地の中の方には、ラベンダーの苗と、ローリエ、ユーカリの苗木を植えてみた。ローリエもユーカリも、いい木陰を作ってくれるようになったら嬉しいんだけど。
ようやっと立ち枯れの後始末がついた頃、ビャクヤとシロタエに3匹の子供が生まれた。もう、くーんくーんと鳴いて、可愛いこと、可愛いこと。
ハクとユキも可愛いけど、もう、ほとんど成犬のようなモノだし、やっぱり赤ん坊と比べてはいけないと思う。
それと時を同じくして……ついに、古龍の卵にヒビが入った。気が付いたのは、3匹を可愛がっていい気分で戻ってきたお昼ごろ。
「……何が生まれてくるんだろう」
私は暖炉の前、テーブルの上に卵入りの籠をのせて、じーっと見つめる。
ヒビが入ったのに、まだ、壊れない。コツコツと必死に出てこようとしているようなのだけれど、殻の方が強固なようだ。
なかなか時間がかかりそうなので、私はコーヒーをいれることにした。
ついでにホットサンドを作る。マヨネーズを薄く2枚のパンに塗って、千切りキャベツとハムと目玉焼きを挟んで、ホットサンドメーカーで焼くことしばし。
ホットサンドメーカーから取り出すと、香ばしい匂い。皿に乗せて、コーヒー入りのマグカップとともにテーブルの上に置こうと思ったら。
カツンカツンッ
カツカツカツッ
ガガガガッ
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
卵が完全に割れて、中から黒い小さなドラゴンが現れた。
まさに、ドラゴン。黒い鱗が艶々しいけれど、イメージしてたドラゴンとは、ちょっと……違った。なんというか……前に元カレと見た、昔のゴ〇ラ映画に出ていたミ〇ラのような、もちもちっとしたフォルム。こう、ファンタジーなカッコいいドラゴンなイメージだったんだけど……やっぱり、赤ん坊だから、なのだろうか?
泣き叫ぶチビドラゴンに、慌てて手にしていたマグカップと皿をキッチンカウンターに置く。
「あわわわっ!?」
どたばたと動き出して、籠から這い出たかと思ったら、すってんころりんと、テーブルから転がり落ちた。
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
再び高音で泣き叫ぶ音に、思わず耳を塞ぐ。超音波って、こんな感じ? というくらいで、窓ガラスまで振動している気がするくらい。
「し、静かにしてぇぇっ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
チビドラゴンの叫び声に被ってしまって、私の叫び声はヤツには届かなかった模様。
……はぁ。
* * * * *
やっと、でられた!
ずっと、そとにでたかったのに、めのまえのなにかが、じゃまをしてだしてくれなくて。
ときどきかんじる、あたたかいちからと、こわいちからに、からだがふるえた。
そして、とおくにかんじる、ずっとかすかにつながっていた、ちからづよいなにか。
そのなにかと、ようやく、しっかりとつながった。
『生まれたか』
『はいっ!』
『五月と共にあれ。もうすぐ私もそばに行く』
『さつき?』
そういわれて、ぴぎゃぴぎゃないているぼくを、こわごわふれようとするなにかにめをむける。
……ああ、あのあたたかくて、こわかったのは、コレか。
「し、静かにしてぇぇっ!」
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
ぼくは、うれしさでこえをあげつづけた。
 





