第117話 ここでも水が溢れだす
食事を終えると、さっそく立ち枯れの『伐採』の続きにとりかかった。
黙々と続ける私をよそに、ハクたちは山の方で走り回っているようだ。気が付けばビャクヤが戻ってきていて、拠点の柵の近くでお昼寝をしていた。
「まぁ、いい天気だしね」
見上げると、青空が広がっている。日差しもだいぶ暑くなっていて、今の私は長袖のTシャツの袖をまくり上げている。山の中とはいえ、木陰がないこの土地では、もう帽子も必要かもしれない。
日が傾いてきたのか、空の色が黄色味がかってきた。そろそろどうかな、と、『ヒロゲルクン』の地図を確認してみる。一応、うちの土地の範囲の『伐採』は終えられたようだ。でも、この先もまだ立ち枯れの場所が続いている。
「でも、こっから先は、他所様の土地だしなぁ」
拠点脇の山の斜面は、ついでだし。
「ただでさえKP使っちゃったんだし、これ以上はごめんなさい」
そう呟いて、振り返る。
「と、遠いっ」
緩やかにカーブをしているのは、山の斜面の形に沿っているから。おかげで拠点の入口は見えない。
「一気に『整地』するには、かなりKPかかりそうだし、仕方ない、柵の中だけ『整地』しようか」
私はのろのろと拠点へと戻りながら、周囲の様子を伺う。ビャクヤたちが周辺を見回っているおかげか、獣や魔物の姿は見られない。まぁ、魔物を見たところでわかんないけど。
拠点の敷地に戻ってみると……。
「え、なんでっ!?」
小屋のそばから水が染み出てきている。
「まさか、水の精霊!?」
ログハウスの敷地でもいきなり水が溢れたのも、水の精霊のせいだったはず。無理やりすぎるでしょ。
このままじゃ、ミニテーブルとか折り畳み椅子まで濡れてしまう。
「え、スコップとかないんですけど……あ、『穴掘り』すればいいか」
慌ててタブレットを出して『穴掘り』選択。直径1mくらいの深い穴が出来てしまった。たぶん、深さは2mくらい? いや、でも、これもそのうちいっぱいになっちゃうんじゃ。実際、じわじわと水位が上がってきている。
「えと、えと、周りに石を敷き詰めて、と……水路はどうしよう……あー、水路準備できるまで、水を溢れさせないとか、精霊さん、できないのかな?」
目に見えない相手にどうかと思ったけれど、言わずにはいられない。
『おお、魔力のたっぷり含んだ水がきましたね』
『これ、おいしいの』
『ねー!』
いつの間にかビャクヤたちが戻ってきて、私の背後からのぞきこんでいた。
「ちょうどよかった! ねぇ、精霊にこれ以上水を増やさないでって、伝えてくれない?」
『大丈夫です、ちゃんと伝わってますよ』
「えっ」
ビャクヤが水源の方へと目を向けるので、視線を追うと……あと10cmくらいで溢れそうというところで、水位が止まっていた。
「え、やだ、ありがとう!」
思わず、肩の力が抜けて、椅子に座り込んだ私なのであった。





