第106話 確定申告と土地の話
久々のごちそうに満足したので、そのままいい気分でキャンプ場の管理小屋に顔を出した。
「あ、こんにちは」
先に挨拶してきたのは、見覚えのある青年。
「稲荷さん、います?」
「はい、はーい」
青年の返事よりも先に、稲荷さんが奥の部屋から出てきた。
「望月様、郵便物、預かってますよ」
「すみません」
そう言いながら、私たちはテーブルの方へと歩いていく。お茶と煎餅は青年が持ってきてくれた。稲荷さんの煎餅も、久しぶりだ。
渡された郵便物の量は多くない。友人からの結婚式の招待状もやはり転送されてきていた。それと。
「うん? うちの会社から?」
なんだろう、と思って封を開けたら、入っていたのは源泉徴収票。
「……あ。年末調整してない」
すっかり忘れていた。
最後の給与も、少し多いな、と思ったのを思い出し、あれ、もしかして退職金も込みの金額だったのか、と気付く。そうだったら、思ったよりも少なかったけど。
「え、じゃあ、確定申告しないといけないのかな」
今更ながら慌てだす。
「大丈夫ですよ。よければ、こっちでやっておきますよ? それ、いただいても?」
「え?」
「だって、ほら、一応、うちからお給料もらってるじゃないですか」
「あ、あー」
そう言われて、ちょっとだけ納得。あれは給与扱いになるのか。だったら、今年度も確定申告しなくてもいいのか? そう思って、ちょっとだけ安心しながら源泉徴収票を渡した。
「税金関係はこっちでうまいことやるから任せて~」
そう軽く言われてしまったけれど、実際、お任せしておくのがいいかもしれない。
「あ、あと、聞きたいことがあって」
私はあちらでの地図の機能と、新たに土地を購入することは可能なのか、というのを聞いた。正直、今の貯金では、すぐに購入とかは無理なんだけど。
「地図ですか?」
「はい、あの『ヒロゲルクン』の地図だと、購入した山の部分しか表示されないみたいで」
「おや、ついに山を下りられたのですか」
「おりたと言っても、まだ周辺をちょっとだけ歩いただけですけど……『ヒロゲルクン』の地図だと、私のいる場所が表示されなくて」
「なるほど……まず、購入については、ちょっと無理ですね」
「理由を聞いても?」
「単純に、あの山の周辺は私の管轄外なんです」
「え?」
どうも周辺の土地には、一応領主みたいなのが存在しているらしい。あの山だけがポツンと独立しているそうだ。
「え、なんで、その、領主の土地ではないんですか?」
「元々、あの山自体が聖域扱いされてるんですよ……昔から人が入り込んだら神罰が下るとか……実際、私が頻繁に管理してた頃は、人は入れないようにしてましたけど」
「え、でも、盗賊がどうとかって」
「いやぁ、ここ数年は、こっちにかかりっきりでねぇ」
「え、ていうか、稲荷さんって、あっちの人なんですか?」
「あっちに家族はいますけど、一応は、こっちの神様ですよ?」
それ以上は詳しくは教えてもらえず。
ついでに地図のアプリはあるらしいけれど、KPが足りてないからメッセージが来ないのでは、とのこと。まさか、『収納』のバージョンアップ並みのKPが必要とか言わないよね? そう思ったら、なんか気が遠くなってきた。
帰り際、青年から「髪、伸びましたね」と言われた。相手が会社の苦手な上司とかに言われたらセクハラ~、なんて思ったんだろうけど、そこそこいい感じの青年に言われると、素直に嬉しいって思ってしまう、単純な27才……もうすぐ28才の独身女性は、私です。





