第99話 山道を整地してみる
何とかできないかと、『ヒロゲルクン』のメニューを見ていて『整地』という機能に目がいった。『整地』というからには、地面をならす、ということだろう。
もしかしたら、と思い、『整地』のメニューを選ぶ。
『範囲を指定してください』
画面にメッセージと共にこの山の地図が開く。ほとんどが対象外の表示でグレーになっている中、ログハウスのある敷地から私が立っている位置までの範囲が茶色に着色されている。この範囲が『整地』可能ということなんだろう。
確かに、車やホワイトウルフたちのおかげもあって、多少は踏み固められてはいるが、雑草が所々生えてはいる。生活に不便はないものの、あまり綺麗とは言えないかも。
しかし、今優先すべきは山道の整備だ。
「だったら、とりあえず道の部分を」
敷地の端から私が立っている辺りまで、指先でずずっとなぞると、『整地しますか』とのメッセージ。さっそく『整地』を選ぼうとしたのだけれど、指定した範囲には4万KPが必要と追加でメッセージが出てきた。思った以上にかかる。
KPの残高を確認すると、2万ちょっと……ぜんぜん足りなかった。
先日、『鑑定』のバージョンアップにかなりつぎ込んでしまったのと、伐採やら枝払いに使ってたりと、貯まる暇もなく使っていたのを思い出す。
「こうして『収納』のMAXまでの道は遠のいていくのよねぇ」
ため息をついたところで、KPは増えないのはわかっている。
仕方がないので、湧き水のところから私の立っているところまでと、指定範囲を短くしてみた。これだと、ギリギリ2万くらい。
「では、ぽちっとな……お、お、おおおっ!」
だだだだっと、湧き水のある方から地面が平らになっていく様に、思わず声があがる。刈られた草の跡も残さず、小石すらない。すばらしいっ!
「うん、これなら車も傷まないかな……でも、山を下りきるまで、まだかなりあるのよねぇ……Uターンできる場所もないし……やるしかないかぁ」
まだ草木の残る先を見て、うんざりする私。
『五月様……そろそろ、戻られては?』
そんな私に、シロタエが声をかけてきた。
「え、もう、そんな時間?」
慌ててタブレットの上に表示されている時間を見てみれば、もうすぐ15時半。もう30分もすれば、山影に入ってしまって、この辺りは薄暗くなってしまう。
その上、夢中になりすぎて、お昼を食べるのも忘れてた。一応、『収納』の中におにぎりとお茶を入れてきてたのに、失敗した。これは、そのまま夕飯になりそうだ。
「はぁ、戻るかぁ……でも、戻るのも面倒だなぁ」
戻らない、という選択肢はないんだけれど、下っている間は気にならないのに、戻るために若干の上りになると嫌だなぁ、と思ってしまう。こちらに来て、なんだかんだと動き回って、体力はついてはいると思うんだけど、それとこれとは、また話が別だ。
『よろしければ、乗ってくださいませ』
「え」
シロタエが私の前で伏せをした。
『私であれば、大した距離ではございませんよ』
「いやでも」
『五月様くらいであれば、うちの子たちなどよりも、軽いのですから』
――ハクたち、また一回り大きくなってきてたもんな。
あれと同じくらい重いと言われたら、それなりにショックだ。
「で、では、お言葉に甘えて」
私は素直に彼女の背中に乗ることにした。





