閑話:老エルフの末路
黒い太陽と赤黒い空に、黒々とした羽を持つ魔物たちが空を飛び交っている。
その空の下には、見渡すばかりの荒野。遠くには巨大な恐竜のような魔物同士が戦っている姿が見える。
その荒野を、血まみれでボロボロの服にローブを羽織った老エルフがノロノロと歩いている。
――わたしは、なにものなのか。
――ああ、つかれた。
――わたしは、どこにむかっているのか。
――からだじゅうがいたい。
――わたしは……なにものなのか。
彼の思考は靄がかかったようで、いくつもの考えが浮かんでは消え、答えはでない。
荒い息を吐き、ぼうっとした顔に涙と涎を流しながら、ただひたすら前へ前へと進んで行く。
彼が辿りついたのは、空を覆うような巨大な黒い城。
大柄な老エルフが見上げてもてっぺんの見えない大きな門が、ぎぃぃぃっと重い音をたてながらゆっくりと開いていく。
その中へと吸い込まれるように老エルフは入っていく。
城の中の大きなホールには、魔族と言われる人々が赤い目を爛々とさせながら、ボロボロの老エルフを声もなく睨みつけている。今にも襲いかかりそうなのを、なんとか押さえ込んでいるようだ。
――なぜ、こやつらはわたしをにらむのだ。
視線があっては威圧されて身体がびくつくけれど、足は止まらない。身体だけが、目的の先をわかっているようだ。
老エルフが進む方向に、魔族たちは道をあけていく。
進んだ先の重厚な扉が音もなく開き、その先には巨大な椅子に巨大な身体の魔王が、肘をつきながら不機嫌そうに睥睨している。
『ようやく来たか』
ビリビリと空気を震わせる魔王の声に、老エルフは力なく膝をつく。
『お前は、色々とやりすぎた』
「……」
声もなく顔をあげる老エルフ。
『まぁ、今のお前には、自分が何をやらかしたかもわかるまいがな』
フンッと鼻息を鳴らし、魔王は黒く長い爪をした指先を老エルフへと向ける。
「ふぐっ!? ぐぇぇぇぇぇぇっ」
老エルフの身体が宙に浮かび、何かに首を閉められたのを必死に外そうとするように暴れ始める。どこにそんな力が残っていたのか、というほどの暴れ方だ。
顔が土気色に変わってきたところで、いきなり身体が床へと落下する。
「がっ!」
カハカハと息を吸い込もうとする老エルフ。
それを面白くない顔で見つめる魔王。
『イグノスも面倒なのを送りこんできたものだ』
老エルフは『イグノス』の名に、ビクリと身体を反応させる。
『ほお。記憶を消し、思考を鈍らされても、己の神の名には反応するか』
「イ、イグノス」
『お前は、いったい何がしたかったのか……わざわざ我が後継候補を召喚させるほどの何があったのだろうなぁ』
ギョロリと老エルフへと目を向ける魔王。
――イグノス……イグノス……ああ、我が神よ。
老エルフは、ただひたすら、イグノス神への熱情が再び湧き上がり、彼の目に狂気が浮かぶ。
その異常な様子に、魔王は鼻に皺をよせる。
『お前のような奴は、《《永遠に》》殺され続けるがいい』
魔王は手を老エルフに向けると、ドンッという音とともに扉の向こう側へと吹き飛ばした。
扉が閉まると同時に、多くの怒声と甲高い叫び声が聞こえた。





