第926話 お花見のお誘い
イグノス様が来た翌日は、空は気持ちのいい快晴。
そして。
「おお~、桜、満開~♪」
「綺麗ね~」
嬉しそうに声をあげるマリン。
朝の一仕事を終えてから、畑の様子を見に行こうと家を出たところで、目の前の桜が満開になっていた。
風でハラハラと舞っていく花びらと、それに乗って遊んでいる小さな精霊たちの姿に、ほっこりする私。
山の桜並木のある入口のほうを見ても、そちらもピンク色一色。
昨日の物騒な話が嘘のように感じるくらい平和だ。
ユグドラシルのばあ様のところへの転移については、稲荷さんが転移用の小屋を用意してくれることになった。
奥さんたちの色々で、迷惑をかけたからと言っていたけれど、もう少し暖かくなったら集める予定のハチミツと、ブルーベリーが生ったらその実を渡すつもりだ。
畑では精霊たちのおかげで、ミニトマトにキュウリ、ほうれん草にキャベツ、季節関係なく育っている。食べごろそうなのを収穫してから、鶏小屋へ。
相変わらず大きな卵を籠にいれて、家へと戻ろうとしたところ、トンネル側の入口のほうから足音と賑やかな子供たちの声が聞こえてきた。
「あっ! サツキ様!」
「マリンちゃんだー」
「おはようございますっ!」
「おはよーござーますー」
テオとマルだけではなく、孤児院の年少組で一番年上のルルー(14歳)が、小さい子たちを引き連れてやってきた。
初めて村に来た時はまだまだ幼い感じだったのに、今では立派にお姉さんになっている。一番小さかったローも、もう3歳。さすがにアマ(8歳)も背負うこともできなくなったようで、テオが背負ってあげている。
小さい子たちはマリンのところに集まり、わちゃわちゃしだした。
背中にいたローが降りたがったので、すぐに降ろしてやったテオは、すっかりお兄さんの顔をしている。
「どうしたの、皆で」
子供たちが勢ぞろいで、わざわざうちまで来るなんて珍しい。
テオとマル、ルルーが私のところにやってくる。
マルはまだ小柄だけれど、テオとルルーは私と身長が変わらなくなっている。ちょっとショック。
「ハノエさまにたのまれて、サツキさまのところに行こうとしたら、ルルーたちがたちがれのとこではたけのせわしてたんだ」
「テオたちがサツキ様のところに行くって聞いたら、皆が行きたがっちゃって……すみません」
「いや、いいけど、こんな大勢で大変だったでしょ」
「フフフ、いつものことだから」
もうすっかり大人である。
「はなみやろうってさ」
マルがワクワクした顔で言ってきた。
「そうそう、きょうはなみやるって! むらのさくらがまんかいだから、ちっちゃうまえにって」
「ああ、そっちも満開になってるのね」
「うん! すごいよ! きのうは、まだちょっとしかさいてなかったのに、あさおきたら、ばーってさいてた!」
「ヘンリックさんたちが、おおさわぎしてた」
「ああ……」
宴会する理由ができたのだから、それは嬉しかろう。(遠い目)
「わかった。じゃあ、色々用意して行くわ」
「うんっ」
「まってるね!」
「じゃあ、皆、戻るよ~!」
ルルーの声に「えー!」という声があがる。
「まだ来たばかりでしょ。よかったら、何か飲んでから戻りなよ」
「でも」
「わーい! 五月、私、ミルクコーヒー飲みたいっ!」
「……マリン」
――子供たちが返事をする前に、お前さんが言うのかい。
ちょっと呆れながらも「はいはい」と返事をした私であった。
前話の糞ルフの話については、気になる方もいるかと思うので、どこかのタイミングで閑話にできたらな、と思います。





